こんにちは、金子吉友です。
外国の首相の電話1本で、アメリカ大統領が自分の約束をひっくり返す。 これが世界最強の国の外交の現実だとしたら、あなたはどう感じますか。
昨夜、まさにそれが起きました。
土曜日ごろから、アメリカとイランの間でついに停戦合意に向けた最終調整が進んでいるという報道が出ていました。SNS上では「もうすぐ停戦か」という空気も流れ始めていた。ところがその合意は、一夜にして崩壊しました。
崩壊の引き金は、電話1本でした。
今日はその一部始終を調査報道メディア「ザ・クレイドル」の報道を中心にお伝えし、そしてタルシー・ギャバード国家情報長官の辞任がこの一連の構造とどう繋がっているかをお伝えします。
95%まで来ていた合意が、一夜にして崩壊した

まず事実関係を整理しましょう。
ザ・クレイドルが報じた内容によれば、アメリカとイランは交渉の中で、仲介者を通じて2つの重要な合意事項を確認していました。
1つ目は、レバノンを含む包括的な停戦。2つ目は、指定されたイラン資産の凍結解除。この2つについて、双方が受け入れを確認済みだったというのです。核問題については「引き続き30日間で交渉していきましょう」として、まず停戦を先行させる形でまとめようとしていた。95%まで来ていた、という表現がまさに当てはまる状況でした。
考えてみてください。今のイランとアメリカの関係を前提にすると、「レバノン停戦」と「イラン資産の凍結解除」という2つの具体的な合意事項を双方が確認したというのは、外交的に極めて大きな前進です。それが実現すれば、さらに核交渉の本丸に進める。現実的な和平への道筋が見えていたわけです。
ところがトランプは、この2つの合意事項を事後的に撤回しました。自分自身で確認した内容を、自らひっくり返したのです。
なぜそんなことが起きたのか。答えはシンプルです。ネタニヤフがトランプに電話をかけたのです。
ネタニヤフの深夜工作──電話の直後に既成事実を作る

イラン問題アナリストのファーザン・アフマディアン氏はアルジャジーラにこう語っています。「この突然の政策転換は、トランプとネタニヤフの電話会談の直後に起こった」と。
仲介者を通じて双方が合意を確認した内容を、大統領が1人の外国首相との電話1本で、卓袱台をひっくり返してしまった。これが主権国家の外交の現実だというわけです。
しかもネタニヤフはその電話の後、すぐ行動に出ました。深夜11時50分に自身のXに投稿をしたのです。
その内容を要約するとこうなります。「昨夜、トランプ大統領と話し合い、大統領はレバノンを含むあらゆる方面からの脅威に対してイスラエルが自衛する権利を再確認した」「トランプ大統領と私はイランとのいかなる最終合意も核の脅威を排除しなければならないという点で一致した」「それはイランの核濃縮施設の解体とその領土からの濃縮物質の除去を意味する」。
何をやっているか分かりますよね。電話でトランプに言わせたことを即座に公開し、既成事実にしているのです。これがネタニヤフのいつものやり口です。
深夜にトランプが寝る前に電話して確約を取り、速攻で投稿する。翌朝には全世界にそれが広がっている。トランプが後から「そんなことは言っていない」と言えない状態を作る。さらにイランとの交渉においてレバノン停戦を条件にすることも、核施設の完全廃棄・核物質の国外除去を「合意済み」として世界に固定させる。すべて計算の上の深夜投稿だったわけです。
しかも「レバノンを含むあらゆる方面からの脅威に対してイスラエルが自衛する権利をトランプが再確認した」という一文も意図的に入れています。これはイランとの交渉でレバノン停戦を条件に含めることを、トランプが拒否したことを意味します。交渉の前提条件そのものを電話1本で潰したわけです。
イランが激怒し、交渉中止を宣言

この動きに対してイランが激怒したのは当然です。
イラン外務省はホルムズ通信社を通じてこう発表しました。「いかなる最終合意にもイランの核問題の約束や核引き渡しは存在しない。それと異なる主張のすべての報道は完全な嘘だ。この問題での米国の主張によりさらなる交渉は無意味。我々は米国といかなる合意も署名しない。交渉を完全に中止する瀬戸際にある」。
「完全な嘘」という表現は外交的に極めて異例の強い言葉です。通常、外交的な声明では「誤解がある」「事実と異なる」といった婉曲表現が使われます。それをイランが「完全な嘘」と言い切ったのは、もはや外交的配慮の余地がないほどの怒りだということです。
何がイランをここまで怒らせたのか。合意内容にイランの核物質の廃棄が含まれているかのようにアメリカ側が言い始めたことです。そんな約束は一切していない。それを「合意した」として世界に広めているアメリカとはもう交渉できない、というわけです。
これまでも何度も同じことが繰り返されてきました。今年2月28日のスイスでの交渉でも、合意に近づいていた協議が翌日の攻撃によってご破算になった。そのたびにイランは「また裏切られた」という経験を積み重ねてきているわけです。
今回もまた、95%のところで残りの5%——まさにレバノン停戦とイラン資産解除という核心の部分——をネタニヤフに潰されました。
なぜネタニヤフは合意を潰したいのか

ここに一つ重要な背景があります。ザ・クレイドルのもう1本の記事に、その答えがあります。
トランプは今週、サウジアラビア・UAE・カタール・パキスタン・トルコ・エジプト・ヨルダン・バーレーンの首脳たちに電話をかけていました。その内容は、「もしアメリカがイランとの停戦合意に達したなら、あなたたちはイスラエルと国交正常化することを期待している」というものでした。つまりアブラハム合意に加わることを求めたわけです。
つまりイランとの停戦は、ネタニヤフにとっては目的ではなく、イスラム世界にイスラエルを承認させるための「餌」として設計されていたということです。トランプ版アブラハム合意2.0。これがネタニヤフとトランプの間で描かれていたシナリオだということでしょう。
アラブ・イスラム諸国の首脳たちの反応はどうだったか。「完全な沈黙」だったといいます。
考えてみれば、これは当然です。サウジアラビアもトルコもエジプトも、「イランとの停戦を実現してくれるなら、その代わりにイスラエルを承認してください」というトレードオフを突きつけられているわけです。答えに詰まるのは当然で、「沈黙」以外の選択肢がない。
さらに興味深いのは、イスラエルの安全保障当局者自身もこの合意に反対していたということです。「イランに回復の時間を与えてしまう。将来の戦争再開が困難になる」という理由からです。ネタニヤフの本音はこうです。中途半端な合意はいらない。イランを完全に潰すか、戦争を続けるか。中間はない、と。
ここで改めて確認しておきましょう。今のトランプ政権のイラン交渉チームには、イスラエル系ロビイストのニック・スチュアートが顧問として入り込んでいます。これは5月22日の配信でザ・グレイゾーンのスクープとしてお伝えした内容です。イランとの取引に「強く反対」してきた人物が、交渉チームの中に座っている。ネタニヤフの深夜電話とこの構造が合わさって、アメリカの対イラン交渉は「最初から失敗するように設計されている」のです。
ギャバード辞任はこの構造と繋がっていた

冒頭でお伝えしたギャバード長官の辞任が、この一連の構造と繋がっています。
表向きの辞任理由は「夫が希少な骨の病気と診断されたため」というものです。6月30日付けでの辞任。それ自体は事実でしょう。しかしスティーブ・バノン氏は今日の動画でこう断言しています。「トゥルシー・ギャバードは解雇された。CIA・モサドによるものだ。これは敵対的な買収だ」と。夫の病気はカバーストーリーとして使われたということです。
ではなぜギャバードが狙われたのか。国家情報長官として、彼女はJFKの暗殺ファイルとMKウルトラの機密文書を合わせて40パーセント分を機密解除しようという動きを見せていました。MKウルトラとはCIAが長年行っていた人間のマインドコントロール実験の極秘プログラムです。薬物の投与や洗脳実験を通じて人間を意のままにコントロールしようとした。CIAが絶対に世に出したくない文書です。
ところがCIAの内部告発者がこう証言しています。「CIAはギャバードの捜査官たちのコンピューターと電話を不法に監視していた」と。上司にあたる国家情報長官の部下をCIAが逆にスパイしていた。これは実質的なクーデターです。
そして決定的な引き金がもう一つありました。ギャバードの陣営にいた対国家テロセンターの局長が辞表を提出したのですが、その内容が「トランプはイスラエルによってイラン戦争に引き込まれた」というものだったと報じられています。文書にして残して辞めたわけです。これはモサドにとっての死活問題でした。
この辞表が引き金となり、ギャバードは解雇寸前まで追い込まれたといいます。ロジャー・ストーンが個人的に介入してギリギリで救ったとも言われています。しかしその後、ギャバードはベネズエラのマドゥーロ問題とイラン問題の両方から外されてしまいました。CIA傘下のラトクリフが静かに地盤を固めていったというわけです。
整理するとこうなります。ギャバードがやろうとしていたJFK文書の機密解除はCIAにとっての死活問題だった。ギャバードの陣営が書いた「トランプはイスラエルによって戦争に引き込まれた」という辞表はモサドにとっての死活問題だった。両方を同時に消せる存在がいた。CIA長官のラトクリフでした。
ネタニヤフが電話1本でイランとの合意をひっくり返した。その同じ構造の中で、ギャバードもまた排除された。すべては繋がっているのです。
「支配の喪失の始まり」という大局観

アラビア語メディアのアナリスト、ナカウェル・マリク氏が今回の状況を鋭く分析しています。
「今起こっていることは合意のつまずきなどではない。ワシントン内部の意思決定そのものの崩壊だ」「トランプは取引を宣言した。その後で撤回した。同意してそして否定した。前進してすべてを凍結した」「これは外交政策の危機ではない。支配の喪失の始まりだ」。
この指摘は重要です。世界最強と言われるアメリカが、一つの決定も固定化できない。電話1本で外国の首相にひっくり返されてしまう。仲介者を通じて双方が確認した合意内容が、翌朝には別の内容にすり替えられている。
これは「外交の失敗」ではありません。アメリカという国の意思決定システムそのものが機能不全に陥っているということです。主権国家であれば、自国の大統領が行った約束は守られる。それが守られない。外国の首相の電話1本で覆る。それが今のアメリカです。
そして覚えておいてください。この構造は今に始まったことではありません。5月22日の配信でお伝えした通り、エルサレム大使館移転も、アブラハム合意も、すべてがイスラエルロビーの要求にトランプが従った結果でした。今回の件もその延長線上にある。
最後に一点だけ。ドイツではAfD(ドイツのための選択肢)が議会で単独過半数に近づいているという情報があります。グローバリストへの反発は世界中で起きています。一見すると「世界的な反グローバリズムの潮流」に見えます。しかし立ち止まって考えなければなりません。
誰がこの「反グローバリズム」の波を演出しているのか。誰が利益を得るのか。
しかし私はここで一つ、注意が必要だと思っています。「反グローバリズム」の波そのものが、実はシオニズムが作り出したナラティブである可能性を真剣に考えておかなければならない。ナイジェル・ファラージは強烈なシオニストです。AfDもシオニスト的な側面がある可能性について注意しなければならないと私は考えています。
5月22日の配信でもお伝えしましたが、真の反グローバリズムと偽の反グローバリズムを見抜く目を持つこと。「反グローバリズム」を掲げながら、実はイスラエルロビーの利益のために動いているプレイヤーが世界中に存在する。その可能性を常に念頭に置いておかなければなりません。
ネタニヤフの電話1本で95%の合意が崩壊した。ギャバードが排除された。世界はこうして動いています。私たちは「誰かが救ってくれる」という期待を捨て、構造そのものを自分の目で見続けなければならない。
何を見ても、最後にはイスラエルという国が絡んでいる。今日はそういう話でした。
今回の内容をさらに詳しく解説した動画は、私のYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひご覧ください。

