こんにちは。金子吉友です。
昨日の記事で、私は「誰が得をしたのか」という問いを立てました。ホルムズ海峡でのあの攻撃で、いったい誰が得をしたのか、と。今日は、その問いの、少し意外な”答え合わせ”をお見せしたいと思います。
というのも、この48時間ほどの間に、イスラエルのネタニヤフ首相が、四つの方向から、ほとんど同時に見放され始めているのです。外交で、アメリカの世論で、イスラエルの内部で、そして戦場で。しかも興味深いのは、その批判の多くが、反イスラエルの人々からではなく、むしろ、これまでイスラエルを支えてきた「身内」から噴き出しているということです。今日は、この「ネタニヤフ包囲網」とでも呼ぶべき現象を、一つひとつ、確かな報道の裏付けとともに見ていきます。
外交からの”ノー”──トランプ、同盟国イスラエルを袖にする

まず一つ目は、外交です。舞台は、2026年7月7日から8日にかけて、トルコのアンカラで開かれたNATOサミットでした。
ここで、アメリカのトランプ大統領が、ある発言をします。トルコに、最新鋭のステルス戦闘機F-35を売却することを検討する、と。トルコのエルドアン大統領と並んだ共同会見での発言です。イスラエルの新聞タイムズ・オブ・イスラエルによれば、トランプはこう言いました。「我々はトルコと、より良い関係にある。トルコは、多くの点で、他の国々よりも、ずっと忠実だった」。他の国々よりも、忠実だった──この「他の国々」に、イスラエルが含まれていることは、誰の目にも明らかでした。
なぜこれが大事件なのか。実は、その直前、ネタニヤフ首相は、必死になって、これを止めようとしていたのです。金曜日にはトランプに電話をかけ、「トルコにF-35を売るな、戦闘機のエンジンも渡すな」と直談判しています。アメリカのCNNのインタビューでは、こう警告しました。「それは、中東の力の均衡を破壊する。トルコには侵略的な野心があるからだ」。財務大臣のスモトリッチも、こう言い切っています。「エルドアンは非常に危険な人物だ。我々はトランプ政権に対して、公にも、そして裏でも、F-35のトルコ売却を阻止するために、猛烈に働きかけている」。
公にも、裏でも、猛烈に、です。この必死さ。 ここに、私は逆説的なものを感じます。これほど必死にロビー活動をしているということは、裏を返せば、今回は思い通りになっていない、ということなのです。
思い出してみてください。トルコは、2019年に、ロシア製のS-400という防空システムを買ったことで、一度はF-35の計画から追放された国です。それを、いま、トランプが呼び戻そうとしている。7億ドル規模のエンジン取引も取り沙汰されています。なぜ、イスラエルがここまで嫌がるのか。理由ははっきりしています。F-35というステルス戦闘機には、イスラエルの企業が開発したセンサーや電子戦の装備が、数多く組み込まれているのです。そして何より、この最新鋭機がトルコの手に渡れば、東地中海や中東の空で、イスラエルが独占してきた航空戦力の優位が崩れてしまう。
かつて、アメリカの中東政策において、イスラエルの意向は、ほとんど絶対でした。その絶対君主が、宿敵とも言えるトルコの隣で、公然と袖にされている。 イスラエルが独占してきた、中東における「質的な軍事的優位」──専門用語でQME(Qualitative Military Edge)と言いますが、この優位の独占が、崩れようとしているのです。これは、世界が一つの中心で回る時代から、複数の極で動く時代へと変わる、その縮図だと、私は見ています。
もう少し踏み込んで言えば、これは「取引の論理」の問題です。トランプという政治家は、イデオロギーではなく、損得で動く。彼の目に、いまのイスラエルは「コストのかかる、扱いにくい同盟国」に映り始めているのかもしれません。逆にトルコは、NATO加盟国であり、地中海と中東の結節点に位置し、独自の軍事力を持つ。「使い勝手」で天秤にかければ、トルコに傾く場面が出てくる──ほんの数年前なら考えられなかったこの計算が、いま公然と語られている。それ自体が、イスラエルの特別な地位が「当たり前ではなくなった」ことの、何よりの証拠なのです。
※参照:タイムズ・オブ・イスラエル/CNN「Netanyahu opposes US sale of F-35 jets to Turkey」(2026年7月7〜8日) https://www.timesofisrael.com/
アメリカ世論からの離反──親イスラエルの重鎮が”ノー”を突きつけた

二つ目は、アメリカ国内の世論です。そして、ここに登場する人物が、実に象徴的なのです。
その名は、ラーム・エマニュエル。日本の皆さんには、前の駐日アメリカ大使、と言えばピンとくる方も多いでしょう。彼は、オバマ大統領の首席補佐官を務め、シカゴ市長も経験した、民主党の大物です。そして、2028年の大統領選挙に出るのではないか、と噂されている人物でもあります。
ここが肝心なのですが、このエマニュエルという人は、生粋の、筋金入りの親イスラエル派なのです。彼の父親は、イスラエル建国前の準軍事組織「イルグン」のメンバーで、独立戦争を戦った人物です。彼自身、ミドルネームが「イスラエル」。1991年の湾岸戦争のときには、イスラエル軍の基地でボランティアまでしています。血統からして、シオニストなのです。
そのエマニュエルが、7月8日、あろうことか、テルアビブ大学の講演で、イスラエルを痛烈に批判しました。これはアルジャジーラ、CNN、ブルームバーグなど複数のメディアが大きく報じています。彼は、イスラエルは、ネタニヤフのもとで、世界の「のけ者」、英語で「パリア」になってしまった、と言いました。そして、こう続けます。「アメリカによる無条件の支援は、間違いだった」。
彼の言葉を正確に引用します。「無条件の支援というものが、一人の首相を生み出してしまった。その首相は、入植地に関するアメリカの懸念を無視し、地域全体を巻き込む戦争を引き起こしても、自分は何の政治的な代償も払わずに済む、と思い込んでいる」。だから彼は、具体策として、アメリカによるイスラエルの国防予算への補助を終わらせるべきだ、パレスチナ人を襲撃する入植者や、それを支援する政治家、違法な入植地を建設する企業や銀行に制裁を科すべきだ、と主張したのです。
そして、これは彼一人の意見ではありません。AP通信とNORC研究センターの世論調査によれば、アメリカの民主党支持者のうち、実に58パーセントが「アメリカはイスラエルを支持しすぎだ」と答えているのです。この数字は、2024年1月には45パーセントでした。それが、わずか2年ほどで58パーセントまで上がっている。13ポイントの上昇です。世論というものは、そう簡単には動きません。その世論が、これだけの速さで動いている。しかも、講演を聴いていたテルアビブ大学のリベラルな学生たちは、エマニュエルがイスラエルの政策を批判したとき、拍手を送ったと報じられています。批判された側の国の、その大学で、拍手が起きる。ここに、私は変化の深さを感じます。
私は、7月2日の配信(記事「タッカー・カールソンが「第三政党」を宣言──MAGAはなぜ死んだのか」)で、共和党の内側、タッカー・カールソンのような保守の論客からもイスラエル離れが始まっている、とお話ししました。今回のエマニュエルは、その民主党版です。 右からも、左からも、アメリカのイスラエル支持は、根本から揺らぎ始めている。血統からのシオニストが、テルアビブで、無条件支援の終わりを説く。この光景そのものが、時代の変化を雄弁に物語っています。
ここで、一つ、冷静な留保も置いておきます。エマニュエルが2028年の大統領選を睨んでいるのなら、この発言には、支持基盤を意識した「計算」もあるでしょう。民主党の若い支持層のイスラエル離れが進んでいるからこそ、彼はそこに合わせて動いているとも読めます。しかし、だからこそ重要なのです。政治家が「計算」で反イスラエルに寄るということ自体が、世論がすでにそちらへ動いた証拠だからです。かつては、親イスラエルであることが票につながった。いまは、その逆が起きはじめている。政治家の計算は、いつも世論の後を追いかけます。その計算の向きが変わったこと。ここに、私は時代の転換を見るのです。
※参照:アルジャジーラ「Democrat Rahm Emanuel tells Israel to no longer expect unconditional US aid」(2026年7月8日) https://www.aljazeera.com/
イスラエル内部からの敗北宣言──元首相2人が認めたこと

三つ目は、イスラエルの、まさに内部からの声です。
7月8日に放送された、イギリスのジャーナリスト、ピアーズ・モーガンの番組「ピアーズ・モーガン・アンセンサード」。ここに、イスラエルの元首相が、二人も出演しました。エフード・バラックと、エフード・オルメルト。かつてイスラエルを率いた二人が、そろって、ネタニヤフの戦争を痛烈に批判したのです。
まず、エフード・バラック元首相。彼が語った趣旨はこうです。今のイランに対する戦争は、「泥沼に沈み込んでいる」。かつてアメリカが失敗した、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争と、同じ構図だ、と。そして、私が最も鋭いと感じたのが、「体制転覆」という幻想への批判です。アメリカやイスラエルは、イランを空爆で叩けば、イランの国民が怒って自分たちの政府に反旗を翻すはずだ、と期待してきました。バラックは、これを「ばかげている」と一蹴しました。外から軍事的な圧力をかければ、国民はむしろ結束して、体制はかえって強くなるだけだ、と。
彼が挙げた例が秀逸です。かつてネタニヤフが、イスラエルの国内で、司法改革という名のもとに民主主義を壊そうとしたとき、イスラエルの国民はどうしたか。外国が「立ち上がれ」と言ったから立ち上がったのではない。自分たちの意思で、ネタニヤフに対して結束して抗議した。それと同じことが、イランでも起きる、と言うのです。つまり、外圧は独裁者を倒すどころか、国民をその旗の下に束ねてしまう。
もう一人、エフード・オルメルト元首相。彼の言葉は、さらに手厳しいものでした。この戦争は「振り出しに戻った」。当初の目的は一つも達成されていない。イランの体制は残り、ミサイル能力も、代理勢力も、健在なままだ、と。莫大なコストと血を払って、たどり着いた先が「開戦前と同じ地点」だったというわけです。これほど残酷な総括もありません。
もちろん、この二人は、ネタニヤフの政敵でもありますから、そこは割り引いて聞く必要があります。これは重要な留保です。 しかし、それにしても、です。かつて国を率いた二人が、そろって公共の電波で「この戦争は失敗だ」と認めた。この重みは、無視できません。
そして、彼らの言葉を、戦場の現実が裏書きしています。アメリカの独立系メディア、ザ・グレイゾーンの記者マックス・ブルーメンタルは、いまイラン現地から報道を続けています。彼が伝えるのは、首都テヘランのタジュリシュ広場で、毎晩のように開かれる民衆の集会の様子です。戦争を押し付けられて以来、広場は連日、人で埋め尽くされている、と。バラックが言った「外圧は国民を結束させるだけ」という指摘を、現地の映像がそのまま証明しているのです。西側の報道は、ずっと「イランの国民は蜂起する」という物語を私たちに聞かせてきました。その幻想を、ほかならぬイスラエルの元首相自身が「ばかげている」と斬って捨てた。表層のニュースではなく、その奥の構造を見る。今日のお話は、まさにその実例です。
※参照:Piers Morgan Uncensored(エフード・バラック/エフード・オルメルト出演回・2026年7月8日)/The Grayzone マックス・ブルーメンタル イラン現地レポート
なぜ”身内”が見放すのか──包囲網の構造を読む

ここまで、三つの方向を見てきました。外交、アメリカの世論、そしてイスラエルの内部。整理してください。この三つに、共通していることがあります。それは、批判の声が、いずれも「敵」からではなく、「身内」「支持層」から出ている、ということです。
トランプは、イスラエルの最大の後ろ盾です。エマニュエルは、血統からのシオニストです。バラックとオルメルトは、イスラエルの元首相です。彼らは、誰一人として、イスラエルの敵ではありません。むしろ、イスラエルを最もよく知り、最も支えてきた人々です。その人々が、そろって、いま、距離を取り始めている。なぜなのか。私は、三つの理由があると見ています。
- ① ガザ戦争が3年目に入り、アメリカの世論が不可逆に変わったこと──エマニュエルの言う「世代の問題」です。若い世代にとって、イスラエルはもはや無条件で支持する国ではなくなった。
- ② 戦争が、何の成果も生んでいないこと──元首相二人が認めた通り。イランの体制は倒れず、戦争はただ長引き、コストだけが積み上がっていく。
- ③ トランプにとって、イスラエルの「利用価値」が下がってきていること──世界が多極化するなかで、地政学の駒として、NATO第二の軍事力を持つトルコのほうが使い勝手がいい。だからトランプは、イスラエルの反対を押し切ってでもトルコを取ろうとする。
そして、その根っこにあるのが、ネタニヤフという指導者の、個人的な事情です。彼は、自身の汚職裁判を抱え、極右との連立を維持しなければ政権が持たない。そのために戦争を続けている、という指摘が絶えません。個人の延命のために、国全体を、そして同盟関係を、危うくする。だからこそ、支持層すら、彼を見限り始めたのです。
誤解しないでください。私は、これを「イスラエルの終わりだ」と言っているのではありません。そうではなく、これは、「ネタニヤフという劇薬」と、「無条件支援という麻薬」、その両方に対する拒否反応なのです。イスラエル・ロビーの「無敵神話」がなぜ崩れ始めたのかは、6月25日の記事「イスラエル・ロビー〝無敵神話〟はなぜ崩れたのか」も併せてご覧ください。本当の友人だからこそ、厳しい真実を伝える。本当の同盟とは何か。それが、いま問われているのです。
まとめ──黄昏の中で、日本への問い

最後に、この話を、私たち日本に引きつけて考えたいと思います。
今日見てきたのは、絶対的だと思われていたイスラエルの立場が、四方から相対化されていく姿でした。これもまた、世界が一つの中心で動く時代から、複数の極で動く時代へと変わる、その大きな流れの一部です。昨日の記事「米イラン停戦はなぜ3週間で崩れたのか」で見たホルムズ海峡の混乱も、この多極化という同じ地殻変動の上に起きています。
そして、ここで、皆さんに問いたいのです。エマニュエルは、イスラエルに向かってこう言いました。「無条件の支援という麻薬から、目を覚ませ」と。同盟国であっても、アメリカの法律に従い、他の国と同じ条件で兵器を買え、と。この言葉を、私は、そっくりそのまま、日本にも当てはまるのではないか、と思うのです。
日本は、アメリカへの、無条件の追随という麻薬に浸ってはいないでしょうか。エネルギーも、安全保障も、経済の根っこも、アメリカに預けきったまま、「日米同盟が基軸です」と唱え続けている。イスラエルが、いま、身内から「無条件は間違いだった」と突きつけられているこの光景は、決して他人事ではありません。
私は、反米を言いたいのでも、反イスラエルを言いたいのでもありません。真の独立、真の主権、そして、真の同盟とは何か。 それを問いたいのです。誰が、誰を、なぜ見放し始めたのか。その表層のニュースの奥にある構造を、どうか、皆さん自身の目で見つめてみてください。
今回の内容をさらに詳しく解説した動画は、私のYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ラーム・エマニュエルとは何者ですか?なぜ彼の批判が重いのですか? オバマ政権の首席補佐官、シカゴ市長、そして前・駐日アメリカ大使を務めた民主党の大物で、2028年大統領選出馬も噂される人物です。父がイスラエル建国前の準軍事組織イルグン出身で、本人のミドルネームも「イスラエル」という筋金入りの親イスラエル派。その彼がテルアビブ大学で「無条件支援は間違いだった」と語ったからこそ、衝撃が大きいのです。
Q2. なぜトランプのF-35トルコ売却がイスラエルの打撃になるのですか? F-35にはイスラエル企業のセンサーや電子戦装備が組み込まれており、また同機がトルコに渡れば、イスラエルが独占してきた中東の航空戦力の優位(QME=質的軍事的優位)が崩れるためです。ネタニヤフは電話で直談判し、財務相スモトリッチも「公にも裏でも猛烈に阻止している」と述べましたが、トランプは「トルコは他国より忠実だった」と応じました。
Q3. イスラエルの元首相2人は何と言ったのですか? 7月8日のピアーズ・モーガンの番組で、エフード・バラックは対イラン戦争を「泥沼」「体制転覆は幻想」と批判し、エフード・オルメルトは「戦争は振り出しに戻り、目的は一つも達成されていない」と述べました。ただし両者はネタニヤフの政敵でもあるため、その点は割り引いて聞く必要があります。
Q4. この「イスラエル離れ」は日本に何を示唆しますか? 「無条件の追随」という同盟のあり方が、支持層自身から問い直されているという点です。エマニュエルの「無条件支援は間違いだった」という言葉は、エネルギー・安全保障・経済をアメリカに預けたまま「日米同盟が基軸」と唱え続ける日本にも、そのまま突き刺さります。真の独立・主権・同盟とは何かを考える契機になります。
関連記事
- 米イラン停戦はなぜ3週間で崩れたのか──ホルムズ海峡「カタール船炎上」の真犯人と、「誰が得をするのか」という問い
- タッカー・カールソンが「第三政党」を宣言──MAGAはなぜ死に、アメリカは「イスラエル・ファースト」に変わったのか
- ネタニヤフの命運は尽きたのか──熱狂のイラン国葬と、雨に沈んだ米建国250周年が映す「二つのアメリカ」
- イスラエル・ロビー〝無敵神話〟はなぜ崩れたのか──マムダニ旋風の正体と〈シオニズムか共産主義か〉という最悪の未来
ここまでお読みくださりありがとうございます。また次の記事でお目にかかりましょう。

