おはようございます。金子吉友です。
今日は昨夜の配信で深掘りしたテーマをお届けします。
「イスラエル・ロビー」という言葉は、最近かなり認知されるようになってきました。AIPAC(米国イスラエル公共問題委員会)という名前を聞いたことがある方も多いでしょう。しかしその名前を知っているのと、「実態を具体的に理解している」のは、まったく別の話です。
今日私がお伝えしたいのは、「なんとなく知っているイスラエル・ロビー」ではなく、彼らが具体的にどこまでアメリカ政府の中枢に食い込み、アメリカの政治・外交・安全保障を動かしているのか、その構造的な実態です。
これは陰謀論ではありません。すべて公開情報に基づく話です。メインストリームメディアが報じないだけで、事実として積み上がっているのです。
トーマス・マッシー議員への「15億円の落選工作」
先週、アメリカのケンタッキー州で非常に注目すべき出来事がありました。
共和党のトーマス・マッシー議員が、予備選挙で落選の危機にさらされたのです。仕掛けられた落選工作に投じられた金額は1000万ドル、日本円で約15億円。
では、誰がその莫大な金額を出したのか。AIPAC(米国イスラエル公共問題委員会)と、イスラエル生まれの大富豪です。
まずトーマス・マッシーという議員について少し補足しましょう。彼はケンタッキー州出身の共和党議員で、リバタリアン的な思想で知られる人物です。戦争反対、政府の肥大化反対、財政健全化を訴える数少ない「本物の保守」と評されてきました。そして彼はAIPACから一切の献金を受け取っていない、これもまた非常に珍しい議員の一人でした。
なぜマッシーが狙われたのか。
まず、彼はエプスタインファイルの公開を最初に声高に求め、法律制定の中心人物となった議員です。このエプスタインファイルというのは、世界の権力者たちと児童性的虐待ネットワークの関係を示す可能性のある機密文書で、その公開を推進した人物がマッシーでした。トランプ大統領すら彼を「恥だ」と批判したほどです。
さらに彼はガザ問題でも、早い段階から停戦支持の票を投じてきました。アメリカのイスラエルへの軍事支援に疑問を呈してきた。そういった行動が、イスラエル・ロビーにとって「都合が悪い人物」と映ったわけです。
そこでAIPACが動きました。
今回の選挙工作の具体的な手法はこうです。
- SNS広告を通じた大量のネガティブキャンペーン
- 地元メディアへの大量の広告投稿
- 「マッシーは反イスラエルだ」「同盟国を裏切った」という印象操作
目的は達成されたかもしれない。しかしここで重要な指摘があります。
アルジャジーラはこう報じました。「AIPACは毒性化している(becoming toxic)」。
かつてなら数百万ドルで済んでいた選挙工作が、今では1000万ドルかけなければ勝てなくなった。これはAIPACが弱体化しているのではありません。むしろ逆です。ガザへの攻撃が続いて子供たちが毎日死んでいるニュースが流れ続けた結果、アメリカの世論、特に若い世代の意識が変わってきているということです。保守派の中にも変化が出てきている。
だからAIPACは資金の出所を隠すようになっています。「見せると逆効果になる」と、自分たちが一番よく知っているからです。かつてなら堂々と「AIPACが支援した」と言えた。今は言えなくなってきている。これが「毒性化」の意味です。
AIPACとは何か──「公共問題委員会」という名の欺瞞
少しここでAIPACについて補足しておきましょう。
AIPACは日本語で「米国イスラエル公共問題委員会」と訳されることが多いのですが、私はこの訳し方に問題があると思っています。「パブリック・アフェアーズ」は「公共問題」ではなく「広報活動」です。
つまりAIPACは「アメリカに拠点を置く、イスラエルを広報するための委員会」です。アメリカ国民に対して、アメリカ政府に対して、イスラエルを支持させるよう工作するための組織なのです。
この訳し方の違いは小さいようで大きい。「公共問題委員会」と聞けば、何か公的で中立的な響きがあります。しかし実態は「外国(イスラエル)の利益のためにアメリカ国内でロビー活動を行う団体」です。
アメリカ最強の親イスラエルロビー団体として、彼らは議員の選挙に多額の資金を投じ、当選した議員を通じて立法・外交政策に影響を与え続けています。
「カジノ王」シェルドン・アデルソンがトランプを作った
このロビー工作の背後に立つ最も重要な具体的人物が、アデルソン一族です。
夫のシェルドン・アデルソンから話を始めましょう。
シェルドン・アデルソンは、ラスベガスのカジノ帝国を一代で築き上げた人物です。2021年1月に87歳で亡くなるまで、アメリカ共和党最大の個人献金者と言われていました。その献金額が桁外れです。
- 2012年の選挙だけで少なくとも1億ドル
- 2020年の選挙サイクルで2億ドル以上
しかし、シェルドンの本当の凄みはお金の量ではなく、「その使い方の政治的効果」にあります。
最もわかりやすいのがエルサレム大使館移転の問題です。
トランプ大統領が2017年にエルサレムをイスラエルの首都と認定し、2018年に大使館をテルアビブからエルサレムへ移しました。これは歴代のアメリカ大統領が「危険すぎる」として手をつけてこなかった案件でした。ビル・クリントンもジョージ・W・ブッシュもバラク・オバマも、みな「いつかやる」と言いながら実際には動かなかった。それほど政治的に難しい問題だったのです。
なぜトランプはそれをやったのか。
シェルドン・アデルソンが要求したからです。ワシントンでは「公然の秘密」とされています。シェルドンは兼ねてから「大使館をエルサレムに移せ」と強く主張していました。トランプは「分かった」と言い、選挙に勝った後それを実現した。
選挙で勝たせてやる代わりに、外交政策の決定権を私が手に入れる。これがシェルドンを「キングメーカー」と呼ぶ理由です。
もう一つ、シェルドンには語られることの少ない重要な側面があります。ハバド・ルバビッチとの関係です。これについては後で詳しく述べます。
「カジノ女王」ミリアム・アデルソンがホワイトハウスを支配する
シェルドンが2021年に亡くなると、帝国を引き継いだのが妻のミリアム・アデルソンです。
彼女はイスラエル生まれ。医師としてのキャリアを積み、シェルドンと結婚してカジノ帝国の女主人になりました。現在はラスベガスサンズの最大株主(株式の約50%保有とも言われます)。さらにNBAのダラス・マーベリックスまで買収しています。推定個人資産は300億ドル以上、日本円で約4.5兆円です。
そして彼女はシェルドンの路線を忠実に継承しています。
トランプの選挙キャンペーンへの献金額は1億ドル以上(日本円で約150億円)。そしてトランプ大統領自身がこう言っています。「ミリアムは大統領在任中、ホワイトハウスに最も頻繁に入った人物の1人だ」と。
考えてみてください。イスラエル国籍を持つ外国生まれの人物が、いつでもオーバルオフィス(大統領執務室)に出入りできる。アメリカの外交政策が、アメリカ国民ではなくイスラエル生まれの大富豪によって左右されているということです。
ここで、ある鋭い指摘があります。
「カジノとは、人々が自分のお金をコントロールできなくなることから利益を得るビジネスだ。依存症、絶望、中毒を食い物にして財を築いた一族が、今度はアメリカの政治を同じ手口で食い物にしている」
ミリアムはまた、税金を可能な限り払わないよう設計された信託・財団・多層的法人構造のシステムを構築しています。これらはすべて合法ですが、結果として本来彼女が払うべき税金はアメリカ市民の負担になっている。一方で彼女はロビー活動を通じて、アメリカ市民の税金をイスラエルに流し込むよう働きかけている。
この構造の歪みに、アメリカ市民はもっと怒っていいはずです。
ハバド・ルバビッチ:金・宗教・政治権力の一体化構造
ここにもう一つ、非常に重要な要素があります。ハバド・ルバビッチという存在です。
ハバドはユダヤ教の中でも特に影響力の強い超正統派の一派で、世界100カ国以上に「ハバドハウス」と呼ばれる拠点を持っています。他の超正統派ユダヤ教団体が閉鎖的なコミュニティを維持するのとは対照的に、ハバドは積極的に外部に向けて展開していく独自のスタイルを持っています。伝道・教育活動を軸に世界的なネットワークを築いている団体です。
シェルドン・アデルソンはこのハバドの世界最大の資金提供者の一人でした。世界中のハバドハウスの設立・運営に多額の資金を提供してきた。
そしてここが核心です。
トランプの娘婿でありホワイトハウスの中東政策担当でもあったジャレッド・クシュナーも、このハバドの熱心な信者です。父親のチャールズ・クシュナーも同じくハバドの信者であり、大口献金者です。
クシュナーは2020年に「アブラハム合意」を主導しました。UAE・バーレーン・スーダン・モロッコとイスラエルとの国交正常化を実現した、この歴史的合意の立役者です。これがシェルドンの長年の夢の一つでもありました。
つまり構造はこうです。
シェルドンがハバドに巨額の資金を提供し → ハバドのネットワークにクシュナーが深く関わり → クシュナーがトランプ政権の中枢(中東政策担当)に座り → 中東政策の実質的な決定権を握る。
これは偶然ではありません。金と宗教と政治権力が意図的に一体化した構造です。しかもその構造は、トランプ政権から次の政権へと引き継がれていく可能性が高い。
イランとの交渉は「最初から失敗するように設計されている」
今月、調査報道メディア「グレイゾーン」が重要なスクープを出しました。
トランプ政権が進めているイランとの核交渉。その交渉を担当する特別大使スティーブ・ウィトコフのチームに、ある人物が顧問として任命されたというのです。名前はニック・スチュアート。
この人物の正体は、イランの指導者との取引に強く反対し続けてきたイスラエル系ロビイストです。
つまり、イランとの交渉を妨害することに最も利益を持つ人物が、イランとの交渉チームの中に座っているということです。
そもそもジャレッド・クシュナーが中東担当をしている時点で、これは構造的な利益相反です。しかしそれを指摘する声は、アメリカの主流メディアからはほとんど出てきません。
コロンビア大学のジェフリー・サックス教授は、この構造をこう鋭く言い表します。
「解決策は簡単だ。アメリカがただ家に帰ればいい。イランはアメリカとイスラエルから繰り返し攻撃されてきた。もし大きな譲歩をしたら再び攻撃されると信じるに足る十分な理由がある。だからイランは核抑止力を維持しようとする。アメリカが家に帰りさえすれば解決できる。しかしイスラエルロビーに支配されているから帰れない」。
そしてイランも馬鹿ではありません。交渉チームにイスラエルのロビイストが入っていることは分かっている。だから信用しない。だから交渉は進まない。
アメリカの中東政策は、構造的に「失敗するように設計されている」のです。イスラエルの利益のために。
イスラエルロビーの「毒性化」と変わりゆく世論
ここで改めて、冒頭のマッシー議員落選工作の話に戻りましょう。
イスラエル紙ハアレツが今週、非常に興味深い論評を掲載しました。「予備選挙シーズンが示すのは、親イスラエルが悪い政策であるだけでなく、悪い政治(バッド・ポリティクス)でもあること」というものです。
これは重要な変化の兆候です。かつてアメリカで「親イスラエル」は選挙で勝つための必要条件でした。AIPACの推薦を受けることは政治家にとってプラスでしかなかった。ところが今は違う。親イスラエルが「悪い政治」として有権者に受け取られ始めている。
特に若い世代、Z世代の変化が顕著です。SNSでガザの映像を毎日見続けた世代は、親イスラエル的な政治家に対してむしろ反感を持つようになっている。保守派の中にも、トーマス・マッシーのような「反戦・非介入主義」の立場への共感が広がっています。
だからこそAIPACは1000万ドルかけなければ1人の議員すら落とせなくなった。だからこそ資金の出所を隠すようになった。
「毒性化」とはそういう意味です。
日本が今学ぶべきこと──真の反グローバリズムと偽の反グローバリズム
ここで日本の話をしなければなりません。
アメリカの外交政策がイスラエルロビーに引っ張られるなら、アメリカの影響下に深く組み込まれている日本の外交・安全保障も当然その波に引きずられていきます。これは「対岸の火事」ではないのです。
さらに注目すべきは、イスラエルロビーと深く絡むプレイヤーたちが次々と日本に入り込んできているということです。
以前の配信でも取り上げましたが、a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)の創業者マーク・アンドリーセンが日本初の海外拠点を設立するために高市大臣を表敬訪問しました。パランティアはすでにソフトバンクと契約を締結しています。ピーター・ティールはパランティアの創業者でありながら、ビルダーバーグ会議の運営委員でもある。マーク・アンドリーセンはピーター・ティールと思想的に極めて近い人物です。
これらのプレイヤーはみな、「反グローバリズム」「反DS」を標榜しています。しかし実態はどうか。イスラエルロビーと深く絡み、ネオコンの利益と一致した動きをしている。
ここに非常に重要なフレームがあります。「真の反グローバリズム」と「偽の反グローバリズム」です。
反グローバリズム・反DSを掲げながら、実はイスラエルロビーの利益のために動いているプレイヤーが存在する。トランプ政権もまさにそうなっている。「トランプがやってくれる」という期待のナラティブ自体が、DSによる目くらましである可能性があります。
私自身、昨年まではトランプ大統領の国家安全保障戦略に一定の期待を持っていた部分があります。中国を封じ込めるあの構想は、共感できる部分がありました。しかしここまで状況が進んでくると、「トランプはもう戻ってこないのではないか」と思わざるを得ません。彼の周りを囲んでいるのは、ネオコンとイスラエルロビーです。MAGAという運動も、振り返れば「選挙に勝つための物語」だったのかもしれない。
私たちが学ぶべきは、「誰かが救ってくれる」という期待ではなく、構造を自分の目で見抜く力です。
「反グローバリズム」という言葉に飛びつく前に、「誰がその言葉を使っているのか」「その人物はどこから資金を得ているのか」「誰の利益のために動いているのか」を冷静に問い直す。その批判的思考こそが、今の日本人に最も必要なものではないでしょうか。
今回の内容をさらに詳しく解説した動画は、私のYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひご覧ください。

