スペイン移民危機の裏側──24時間で4万9千人、その背後にちらつくイスラエルの影

こんにちは。金子吉友です。

わずか24時間で、4万9,000人。

2026年7月31日、アフリカ北端にあるスペインの町セウタに、これだけの数の移民が押し寄せました。死者は50人超。異例の出来事として、世界中で移民問題への注目が再び集まりました。

私はこの週末、このスペイン移民危機について色々と調べてみました。すると、背後にイスラエルとアメリカの関与の疑いが浮かび上がってきたのです。

こうした出来事が偶発的に発生したのではない可能性は、極めて高い。意図的に誘因されている。直接どこの政府がどう関わったのかまでは、はっきりとは出てきません。ですが、大国や、諜報機関といったものが背後でこの移民危機を誘発した、という構図がどうしても浮かび上がってくるのです。

表層を見ているだけでは、こういう出来事は分かりません。 そこに埋め込まれた構造を見ていく必要があります。今日は、この移民危機の裏側を、じっくり追いかけていきます。

目次

セウタとは何か──EUのアフリカ側の門

セウタとはEUのアフリカ側の門

まず、何が起こったのかを整理していきましょう。

今回の出来事が起こったのは、北アフリカ・モロッコにあるスペイン領セウタです。モロッコには、スペインの飛び地が2つあります。セウタとメリーリャです。

メリーリャの方は流入した移民が100人に満たなかったため、あまり取り上げられていません。X上で話題になったのはセウタの方です。

アフリカ本土にあるスペイン領は、このセウタとメリーリャの2つだけ。1668年からスペインの主権下にあり、約360年続いています。EUがアフリカと陸で接する、数少ない場所なのです。

そこに、2026年7月31日、わずか24時間で約4万9,000人が流入し、死者は50人超という異例の事態が起きました。X上には、海を泳いで渡ってくる移民の映像が大量に拡散されています。フェンスは陸にしかなく、海を少し泳げば渡れてしまう場所だからです。

不可解な映像の数々

ただし、冷静に見ると、おかしなことがたくさんあります。ほとんどの人が手ぶらでした。 荷物を持っていない。ある人は自転車を持って陸に上がってきたりもしています。みんな嬉しそうにカメラに手を振りながら、笑いながら走っている。

本来、移民というのは、過酷な旅のはずです。見つからないよう小さなボートでEUのどこかに漂着する、命がけの旅。それとはまったく真逆の、楽しそうな様子が映っているのです。

そして、しばらく経つと、大半の人が数時間から1〜2日で、自らモロッコ側に戻っていきます。 この映像に「モロッコ側がフェンスを開けて意図的にスペイン側の道を開いた」というキャプションをつけて拡散する投稿がありました。

これは、2つの意味でミスリードです。 一つは、これは戻っていく人たちの映像だということ。もう一つは、この後で詳しく触れますが、2021年に同じような規模の異なる事件(約5,000人流入)が実際に起きており、その時の映像が今回のものとして使い回されているということです。完全なフェイクニュースです。 移民問題そのものは確かに深刻ですが、これに乗じて煽り、人々をコロッと騙してしまう仕掛けが動いている。気をつけなければなりません。

※参照:X(旧Twitter)上の拡散映像の検証、地元メディア報道(2026年7月)

4か月前の提案──ネオコン系シンクタンクの「予告」

4か月前のネオコンシンクタンクの予告記事

ここからが本題です。この件を調べていくと、ネオコン系のシンクタンクが、モロッコからセウタへの移民攻撃を仕掛けるべきだ、という記事を書いていたことが分かりました。しかも、2つのネオコン系シンクタンクに、同じ趣旨の記事が掲載されていたのです。

2026年3月16日、ワシントンの保守系シンクタンクアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)。ここの上級研究員で、国防総省の顧問も務めたマイケル・ルービン氏(バリバリのネオコン派)が、こう書いています。

「モロッコはセウタとメリーリャに大量の移民を送るべきだ」

そして、この記事とほぼ同じものが、もう一つのネオコン系シンクタンクミドルイースト・フォーラム(中東フォーラム)にも掲載されているのです。

ネオコンの「予告」パターン

ネオコンの動きというのは、辿っていくと非常に分かりやすいのです。9.11の時も、事前にネオコン系シンクタンクが「イラクを攻撃すべきだ」「アメリカは中東に介入すべきだ」と積極的に騒ぎ立てていました。アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)などが有名ですね。過去に遡って彼らの発言や記事を見ていくと、それが「予告」になっていることが分かるのです。

マイケル・ルービン氏は、4か月前に「モロッコから大量の移民をスペイン領に送り込むべきだ」と書いていた。非常に分かりやすい構図ではないでしょうか。

「グリーンマーチ」を再現せよという提案

ルービン氏の記事では、「グリーンマーチ」という1975年の出来事が引き合いに出されています。当時、モロッコが非武装の民間人約35万人を西サハラに行進させ、これを統治していたスペインが撤退。モロッコがこのエリアを実効支配した、という歴史的事件です。

ルービン氏は、この「新しいグリーンマーチ」をやるべきだと提案しているのです。「モロッコ人は集合して国境にブルドーザーを送り、非武装でセウタとメリーリャに入って国旗を掲げよう」とまで書いています。そして、「NATOはこれには対応できない」とも。NATOの北大西洋条約第5条・第6条は、防衛の対象をヨーロッパまたは北米に限定しており、アフリカにあるセウタは対象外だ、という点まで指摘しているのです。

イスラエル大手メディアの「連動記事」

さらに、この記事が出た翌月、2026年4月25日頃、イスラエルの大手ニュースサイトYnet(イェットニュース)に、関連する記事が掲載されました。マイケル・ルービン氏の記事が元になっているのではないかとも言われています。

タイトルは「アブラハム合意がジブラルタル海峡に到達する」。副題は「イスラエルはいかにモロッコが北部(セウタ・メリーリャ)を取り戻すのを助けられるか」というものです。

この記事を書いたのは、モロッコ在住のアナリストアミン・アブ氏。そして、この人物もミドルイースト・フォーラムのフェローだったのです。マイケル・ルービン氏と同じシンクタンクに所属している。私はこれを、イスラエルの代理人のような動き方をしている人物だと見ています。

具体的には、イスラエルがモロッコによるセウタ・メリーリャの領土主張を、外交的に後押しすべきだという内容。「軍事進攻は必要ない。外交とSNS、同盟国内での圧力でやれ」と書かれています。移民という言葉こそ出てきませんが、グリーンマーチという「大量の人間を動かしてスペインを撤退させる」前例がある以上、これも一つの手段として当然視野に入っていたはずです。

※参照:アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)マイケル・ルービン氏の記事(2026年3月16日)/Ynet(イスラエル大手ニュースサイト、2026年4月25日頃)

スペインの「ノー」──なぜイスラエルとアメリカに睨まれたのか

スペインのイスラエル・アメリカへのノー

ここで、なぜスペインが標的になったのかを見ていきましょう。

スペインは、ヨーロッパの中でもイスラエルに最も強く逆らってきた国なのです。

  • 2024年5月:アイルランド、ノルウェーとともにパレスチナ国家を承認。イスラエルは報復として駐スペイン大使を本国に召喚
  • 2025年9月武器禁輸に踏み切り、イスラエル向け武器を積んだ航空機がスペインの港・空港を使うことを禁止。サンチェス首相はガザでの軍事作戦を「ジェノサイド」と表現
  • 2026年3月:駐イスラエル大使の職を正式に終了。両国は互いに大使を置いていない状態に。1986年の国交樹立以来、最悪の状況

さらに、スペインが逆らった相手はイスラエルだけではありません。2026年3月、スペインはアメリカ軍が対イラン作戦のためにスペイン南部のモロン空軍基地とロタ空軍基地を使うことを拒否しました。 空中給油機が基地から引き上げられています。スペイン政府の説明は、「国際法と国連決議の枠を超えるものには使わせない」というものでした。

つまり、スペインはイスラエルにもアメリカにも、はっきり「ノー」を突きつけている国なのです。トランプ大統領はサンチェス首相を汚い言葉で罵り、関税での圧力もかけてきました。

サンチェス首相の「もう一つの顔」

サンチェス首相は骨のある人物、という評価もあります。ただし、公平に申し上げると、彼は土着の社会主義者でもあります。社会主義インターナショナルという組織にも関わっており、約50万人規模の移民受け入れを公式見解として発表しています。他の欧州諸国が国境を閉鎖する方向にある中、真逆のことをやっているわけです。

いずれにしても、イスラエルとアメリカの両方に対して非常に厳しい姿勢を持っている国である、ということです。

ネタニヤフの直接的な報復宣言

2026年4月10日、ネタニヤフ首相は公式に声明を出しています。

「スペインはイスラエルに対する外交戦争を仕掛けている。この行為と敵意を我慢するつもりはない。我々に対して外交戦争を仕掛ける国に、即座に代償を払わせずに済ませるつもりはない」

さらに、ネタニヤフ氏の息子ヤイル氏は、2019年にすでにセウタへの侵略を示唆する投稿をしていたことも分かっています。

スペインは、アメリカとイスラエルの両方から、非常に煙たがられている国だったということです。

議会文書が書き換えられた日──7月15日の可決

7月15日の法案可決

ここでさらに、具体的な話に入っていきます。

ネット上には、「アメリカ議会がセウタのモロッコへの帰属を認めた」「2,000万ドルの支援を承認した」といった情報が拡散されました。根拠としてHR8595という法案のPDFが添付されていたりします。

ですが、これは中身を見ても、そうした言葉は出てきません。 「モロッコ」という単語すら、法案本文には出てこないのです。

委員会報告書に潜んでいた一文

では完全に出鱈目だったのかというと、そうとも言い切れません。該当する文言があったのは、法案の本文ではなく、それに付随する委員会報告書の方でした。下院歳出委員会の報告書(H.Rept. 119-63)、2026年4月下旬のものです。ここに、こう書かれていたのです。

「委員会は、スペインが統治するセウタとメリーリャがモロッコ領内に位置し、モロッコの長年の主張の対象であることに留意する」

つまり、議会が正式に領土の帰属を認めたわけではありません。これはデマです。 共和党のトーマス・マッシー議員も、これは言い過ぎだと主張しています。「占領された領土」という拡散文言も誤りで、報告書にそんな表現はありません。2,000万ドルの承認も、法案本文には書かれていません。プロパガンダによってすり替えられて拡散されたわけです。

ただし。 アメリカの公式文書が、同盟国であるスペインが統治する自治領について「モロッコ領内に位置する」と書いたのは、これが初めてなのです。これは意図的なものだと感じられます。政治的な匂いがぷんぷんするものです。 同盟国スペインへの、政治的な道具としての嫌がらせ、という構造です。

さらに、この報告書には、セウタ・メリーリャの将来の地位についてスペインとモロッコの外交協議を促す内容も含まれています。アメリカが、この二国間問題に介入する可能性がある、ということです。なぜアメリカが介入する必要があるのか、という話ですよね。

この法案が可決されたのが、2026年7月15日。反対したのはトーマス・マッシー議員、ただ一人でした。 そして、この2週間後に、今回の移民危機が発生している。

※参照:H.Rept. 119-63(下院歳出委員会報告書、2026年4月下旬)/HR8595法案

三角形──アメリカ・イスラエル・モロッコの軍事協力

アメリカ・イスラエル・モロッコの三角形

ここで、アメリカ・イスラエル・モロッコの関係を整理しておきましょう。

2020年12月、モロッコがイスラエルを承認するアブラハム合意が結ばれました。この見返りにモロッコが受け取ったのが、アメリカによる西サハラの主権の承認でした。西サハラは、どこの国にも正式に帰属していない、モロッコの南に広がる広大な領土です(モロッコ本土の半分ほどの広さ)。これをめぐって独立を目指す勢力(ポリサリオ戦線)との対立が続いています。

「イスラエルを承認する代わりに、西サハラの主権をアメリカに認めてもらう」──これが、アブラハム合意の交換条件でした。

そして、軍事協力は急速に深まっています。

  • 2026年1月:イスラエルとモロッコがテルアビブでの共同軍事委員会第3回会合で、共同軍事作業計画に署名(情報共有・技術移転・共同訓練が柱)
  • 2026年4月:アメリカとモロッコが10年間の防衛協力ロードマップに正式署名
  • イスラエル航空宇宙産業が50%出資するブルーバード社との合弁で、モロッコは「スパイX」という自爆ドローンの現地生産を開始(カサブランカ工場。中東・北アフリカで初のイスラエル国外施設)
  • ラファエル社の「アイアンドーム」級防空システム「スパイダー」の配備も衛星画像で確認
  • モロッコ北部の海岸に、イスラエルのドローン・レーダー・電子戦技術を統合した共同の海上監視センターが建設中と報道。つまり、セウタ・メリーリャという2つのスペイン領を、このセンターが監視する対象になっている

さらに、モロッコはガザの国際安定化部隊にも参加します。7月には約30人の将校がガザに入り視察済み。今後、約500人規模の部隊展開も見込まれています。なぜモロッコがガザに行く必要があるのか。 イスラエルは、アブラハム合意のパートナー国家を軍事的に動員させようとしているのです。モロッコは、もはやイスラエル陣営であり、アメリカ・イスラエル陣営の国であると考えていいでしょう。

ジブラルタル海峡──本当の狙いは移民問題ではない

ジブラルタル海峡の地政学的重要性

ここで、さらに核心に入っていきます。この移民危機の本当の狙いは、移民問題そのものではなく、ジブラルタル海峡なのではないかという指摘があります。

元ヒューマン・ライツ・ウォッチ事務局長のケネス・ロス氏が、こう述べています。

「なぜイスラエルは、批判者であるスペインではなく、同盟国モロッコにセウタを支配してほしいと思うのか」

ジブラルタル海峡は、最も狭いところでわずか13キロメートル。 ホルムズ海峡(約33キロメートル)よりも短いのです。世界の海上貿易のおよそ10%(年間約10万隻)がここを通ります。大西洋と地中海を結ぶ唯一の自然の通路です。

そして、この両岸を実質的に握っているのが、スペインなのです。 セウタを領有していることで、スペインはジブラルタル海峡そのものをほぼ支配しているような立場にあります。

ロス氏はこう続けます。「イランがホルムズを握れるのであれば、スペインもジブラルタルを握れるのではないか」(これはロス氏自身の推測です)。

さらに、スペイン紙が報じて議論になっている話もあります。トランプ政権が、モロン基地・ロタ基地の米軍を、スペインからモロッコに移すことを検討しているというものです。確定した話ではなく、モロッコ側も特に求めているわけではないと伝えられていますが、スペインとの関係が悪化する中、あり得る選択肢として検討されている可能性はあります。

イラン戦争でホルムズ海峡が事実上封鎖され、フーシ派がバブエルマンデブ海峡の封鎖をほのめかし、サウジアラビアの民間船すら航行できなくなっている中で、さらにジブラルタル海峡までもが狙われているこのタイミングは、決して偶然ではありません。

※参照:ケネス・ロス氏(元ヒューマン・ライツ・ウォッチ事務局長)の分析投稿

採らない説──モサド・CIA黒幕説への留保

モサドCIA黒幕説への留保

ここで、X上でよく見かける話に触れておきます。「これはモサドとCIAが指揮した作戦だ」という投稿です。

これは、証拠が何もない話です。言うのは簡単なのですが、私はこの主張をそのまま採用しません。

ただし、だからといって「モサドとCIAが絡んでいない」ということでもありません。 こういう作戦を描けるだけの動機と能力を持つ組織は、イスラエルの諜報機関(モサド)とCIAくらいしかない、というのも事実です。ちなみに、CIAは今、イスラエル(モサド)によって、事実上掌握されてしまっています。 モサドの方が力が強く、ペンタゴンにも堂々と入っていくと言われています。モサドがCIAを動かすことも、十分にあり得ると私は考えています。

ですが、今回の件については証拠が出てきていませんので、断定はできません。

同様に、「モロッコ政府がバスで人々を組織的に運んだ」という投稿も、証拠がありません。大量の人がトラックに乗っている映像に、そういうキャプションがついているだけです。本当かもしれないし、嘘かもしれない、という段階です。

一方で、事実として確認できることもあります。 移民危機の3日前、7月27日、セウタの地元メディアが、Facebookの公開グループで大量の投稿が組織化されていたと報じています。モロッコ領内からセウタまでの「泳ぐ距離」を示した地図や、水泳用フィンの広告まで共有されていたそうです。確認されたグループは約2万人規模。 SNSで組織的に呼びかけられていた可能性は、確かに浮かび上がってきます。

2021年の前例──まったく同じ構図が5年前にもあった

2021年の前例とペガサス事件

ここから、さらに核心に迫っていきます。実は今回と同じようなことが、規模は小さいものの2021年、5年前に起きていたのです。

  • 2021年4月:スペインが、西サハラの独立を目指す勢力ポリサリオ戦線の指導者ブラヒム・ガリ氏を、コロナ治療のために受け入れる(ポリサリオ戦線はモロッコと対立関係にあり、アルジェリアが支援)。モロッコが強く反発
  • 2021年5月:セウタに約8,000人が流入。モロッコ側が国境を開いていた
  • 2021年5月19日:モロッコが国境管理を強化するよう指示 → 流入が急減
  • 翌日、駐スペインのモロッコ大使が「ガリがスペインにいる限り大使館に戻らない」と発言

これだけの人数がセウタに流入するかどうかは、モロッコの国境管理次第である、ということが非常に分かりやすく示されています。今回も同じです。モロッコが国境管理を厳しくしていれば、5万人もの流入は起こらなかったはずなのです。

ペガサス・スパイウェア事件との連動

さらに、2021年5月から6月にかけて、もう一つの出来事が起きています。サンチェス首相と国防大臣の携帯電話が、イスラエル系スパイウェア「ペガサス」に感染していたのです。これはスペイン政府自身が2022年に公式に認めています。

ペガサスは、イスラエル企業NSOグループが開発したもの。モロッコがこのNSOグループの顧客であり、スペイン政府高官を含む多数を標的にしていたことを、フォビドゥン・ストーリーズ、アムネスティ・インターナショナル、ガーディアンなどの国際的な調査報道が報じています。モロッコはこれを一貫して否定していますが、複数のメディアが同様の報道をしています。捜査はイスラエル側の協力が得られず難航し、モロッコの関与を明確に断定できないまま終わりました。

そして、スペインは屈した

2022年、スペインは50年守ってきた中立の姿勢を変え、西サハラでモロッコの自治案を支持する側に回りました。

グリーンマーチでスペインを追い出し、8,000人の移民圧力とスパイウェアで揺さぶり、最終的にスペインを味方につけた──これが2021年から2022年にかけて起きたことです。2026年の今回は、同じ手法が、規模を10倍近くに拡大して繰り返された、と見ることができます。

※参照:フォビドゥン・ストーリーズ/アムネスティ・インターナショナル/ガーディアン(ペガサス・プロジェクト調査報道、2021〜2022年)

誰も潔白ではない──100年前の化学兵器と、いまのジェノサイド非難

誰も潔白ではないリーフ戦争の歴史

ここで、スペインにとって不都合な歴史にも触れなければなりません。

1921年から1926年にかけて「リフ戦争」が起こりました。 モロッコ北部でアブド・エル・クリムが率いる人々がスペインに抵抗した戦争です。この時スペインは、1924年以降、航空機からマスタードガスなどの化学兵器を投下しました。 標的には民間人の村や水源も含まれていました。複数の歴史研究で確認されている事実です。 第一次世界大戦後、大規模な化学兵器が使われた初期の事例の一つとされ、大規模な死傷者が出て、北部モロッコでは今もがんの発生率が高い地域があり、化学兵器の影響を指摘する研究もあります。

セウタの問題は、こうした歴史の上に位置しているのです。 そして今、そのスペインが、世界で最も強くガザを「ジェノサイド」だと語っている。自分たちも過去に同様のことを行ってきたにもかかわらず、です。

先ほどのルービン氏の論やYnetの記事も、まさにこの点を突いています。「スペインは脱植民地主義を語りながら、自分はアフリカに飛び地を持っているではないか」と。100年前の本物の加害の歴史が、今、外交の武器として使われているわけです。

もう一つ、皮肉な事実があります。スペインは2025年から2026年にかけて、約50万人規模の移民の正規化を進めています。 開かれた国であろうとしてきた。その国の門に、5万人が一気に押し寄せた。 開こうとしていた国が、開かれすぎたことで揺さぶられた──非常に皮肉な結果です。

まとめ──利害の一致という、恐ろしい構造

利害の一致という構造

今日の話を整理していきます。

もう一つの説明も紹介しておく必要があります。モロッコには、独自の動機もあります。 2026年7月20日、サンチェス首相は4年ぶりにアルジェリアを訪問しています。アルジェリアはモロッコの地域的なライバルであり、ポリサリオ戦線の後ろ盾です。その訪問の10日後に、今回の危機が起きている。 アルジェリアへの接近に対する警告ではないか、という見方も複数の分析で出ています。

時系列で並べてみましょう。

  • 2020年:アブラハム合意(イスラエル承認と西サハラ主権承認の交換条件)
  • 2026年1月:イスラエル・モロッコが軍事計画に署名
  • 同3月:スペインが米軍基地の使用を拒否/ルービン氏が移民送り込みを提案する記事を発表
  • 同4月:ネタニヤフが「代償を払わせる」と表明/議会文書に「モロッコ領内」の表記/米モロッコが10年の防衛協力に署名/Ynetが関連記事を掲載
  • 7月15日:問題の法案が可決
  • 7月20日:サンチェス首相がアルジェリア訪問
  • 7月21日:地元紙がFacebookでの組織化を報道
  • 7月30〜31日:約5万人がセウタに押し寄せ、50人超が死亡

どこの国の誰が指示したと断定できるものではありません。まだ、その証拠はないのです。だから「一枚岩の陰謀があった」とは言えません。

もっと怖いのは、それぞれが自分自身の理由で動いた時に、利害がこう重なっているということです。

  • モロッコには、アルジェリアへの警告と、セウタ奪還という長年の悲願
  • イスラエルには、自分に逆らった国(スペイン)への報復
  • アメリカには、基地を使わせなかった同盟国を懲らしめ、より従順なパートナーに変える動機
  • そしてジブラルタル海峡という地政学的利権を狙う、アメリカ・イスラエル共通の思惑

それぞれの動機は違っても、利害が一致している。 この構造があって、今回の件が起きた。モロッコを使って、スペインが攻撃された、という話なのです。

「彼らは自分たちの手を汚さない」──これが諜報のやり方です。これも外交を動かす情報戦の一つの形。世界に波のように広がっているものだと思います。

そして、日本は

日本はあまり関係ないと思うかもしれません。ですが、アメリカとイスラエルの計画は、着々と進んでいます。

南米は、ブラジルを除いてほとんどの国がイスラエル陣営になってしまっています。コロンビアの新大統領もイスラエル支持です。UAEもイスラエル陣営、モロッコもイスラエル陣営。 ソマリアの独立未承認国家「ソマリランド」をイスラエルが承認し、軍事化しているという話もあります。イスラエルは要所要所で、自分の支配下に置く国を量産し、シオニズムを進めている。 リベラル政権を転覆させて、極右の政権を誕生させようとする──これがイスラエルのやり方です。

構造で見ていくと、非常に恐ろしい方向に進んでいます。イスラエルに逆らった国は、対立している国を「道具」として使われて、報復される。 今回のスペインは、その分かりやすいケースです。アメリカ・イスラエルからの直接の報復ではなく、モロッコが使われたという話なのです。

ちなみに、10月27日のイスラエル総選挙でネタニヤフが倒れたとしても、何も変わりません。野党側の有力候補ナフタリ・ベネット元首相は、むしろ強硬派です。より強硬化することはあっても、緩むことはないでしょう。

日本は、アメリカに飲み込まれています。 真の独立、主権の回復を目指そうともしていません。そしてアメリカは、イスラエルに軍事的にも飲み込まれようとしています。 セクション219(旧224条項)──アメリカの軍事技術とサプライチェーンをイスラエルと統合する法案が、成立に向かっています。日本のメディアはほとんど伝えませんが、アメリカの軍事技術も、サプライチェーンも、諜報も、イスラエルに飲み込まれようとしているのです。

アメリカはイスラエルに飲み込まれ、日本はアメリカに飲み込まれている。この入れ子構造は、今回の件でも確認できます。そして、世界もまたイスラエルに飲み込まれつつある。

表層だけを見ていては分かりません。 「移民危機」「移民は危険だ」という騒がれ方をしていますが、水面下の構造はそうではないのです。この一つの国が、どんどん触手を伸ばしているという話です。私は、本当に恐ろしいことだと思います。

ここまでお読みくださりありがとうございます。また次の記事でお目にかかりましょう。

関連記事

今回の内容をさらに詳しく解説した動画は、私のYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. スペイン移民危機とは何ですか? 2026年7月31日、モロッコからスペイン領セウタに約24時間で約4万9,000人の移民が流入し、死者50人超という異例の事態が起きました。ほとんどの移民が手ぶらで陸から短時間で流入していることなどから、自然発生的なものではなく組織的な誘発の可能性が指摘されています。

Q2. なぜイスラエルが関与している疑いがあるのですか? 2026年3月にネオコン系シンクタンクAEIの研究員マイケル・ルービン氏が「モロッコはセウタ・メリーリャに大量の移民を送るべきだ」とする記事を発表し、翌月にはイスラエル大手メディアYnetにも同趣旨の関連記事が掲載されました。ネタニヤフ首相はスペインの対イスラエル外交への「代償を払わせる」と公式に表明しています。

Q3. なぜスペインが標的になったのですか? スペインは2024年にパレスチナ国家を承認し、2025年に対イスラエル武器禁輸に踏み切り、2026年3月には米軍によるイラン作戦への基地使用も拒否しました。イスラエル・アメリカ双方に「ノー」を突きつけてきた数少ないEU加盟国であり、その報復として同盟国モロッコが利用された可能性が指摘されています。

Q4. 2021年にも同様の事件があったのですか? はい。2021年4月にスペインが西サハラ独立派指導者を受け入れたことにモロッコが反発し、同5月に約8,000人がセウタに流入、モロッコが国境管理を強化すると流入は急減しました。同時期にスペイン首相の携帯電話がイスラエル製スパイウェア「ペガサス」に感染していたことも判明し、2022年にスペインは西サハラ問題でモロッコ支持に転換しています。

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この記事を書いた人

反DS歴史研究者、調査ジャーナリスト。YouTube『あつまれニュースの森』(登録者10万人)にて反グローバリズムの視点で世界情勢・国内政治を解説。

本業だったコンサルタントから徐々に歴史研究にシフトしていく。日々リサーチする中、メディアや歴史が嘘だらけであり、この世界が一部の権力機構によって支配されてきたことに強烈な違和感と憤りを覚えるようになる。

グローバリズムの根源と実態を徹底的に研究。その歴史を旧約聖書まで遡り、現在のいわゆるディープステートのルーツがハザール系とアングロサクソン系の2系統にあることを突き止める。

2021年、YouTubeを開始し、グローバリストのルーツを徹底解剖するオンラインサービス『金子ゼミ』を立ち上げる。

グローバリストにより”修正”された歴史を”修復”する「歴史復元主義」を根本理念とする。

情報発信者としての信条は「左も右もない反グローバリズム・国益第一主義」「不偏不党」。

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