こんにちは。金子吉友です。
いま、アメリカ政治で非常に大きな地殻変動が起きています。
11月に行われる中間選挙を前に、共和党にとってかなり厳しい数字が出始めています。
トランプ大統領の支持率は低迷し、イラン戦争をめぐる対応にも強い不満が出ている。そして、これまでトランプ大統領を支えてきたMAGA(Make America Great Again)の内部でも、深刻な亀裂が生まれています。
しかし、今回お伝えしたいのは単純な「共和党の危機」ではありません。
「共和党が弱くなったから民主党が復活する」
という話でもないのです。
なぜなら、その民主党自身もまた、内部から大きく変質し始めているからです。
共和党では「アメリカ・ファースト」を掲げる反介入派と、イスラエルとの同盟を重視する親イスラエル保守が衝突する。
一方、民主党では既成の党主流派と、DSA(Democratic Socialists of America=アメリカ民主社会主義者)を中心とする左派、さらに親パレスチナ・イスラム系政治勢力との連携が急速に拡大している。
つまり現在起きているのは、
「共和党 vs 民主党」ではなく、「共和党と民主党の双方が内部から作り替えられていく」という現象
なのです。

そして、その再編の中心にある問題の一つが「イスラエル」です。
今回は、2026年中間選挙から2028年大統領選挙までを見据えながら、アメリカ二大政党に何が起きているのかを整理していきたいと思います。
共和党に突きつけられた「中間選挙惨敗」の可能性
まず見ておかなければならないのが、11月の中間選挙です。
予測市場「Polymarket」では、私が確認した時点で、民主党が上下両院を奪取するシナリオが51%、共和党が上院を維持しながら民主党が下院を奪取するシナリオが36%となっていました。
つまり、この二つを合わせれば、
民主党が下院を奪還するシナリオが87%
まで織り込まれていたことになります。

もちろんPolymarketは世論調査ではありません。
参加者が実際に資金を投じて将来の出来事を予測する「予測市場」ですから、「87%の確率で必ず民主党が勝つ」という意味ではありません。
しかし、市場参加者がそれほど強く共和党の議席喪失を織り込み始めていることは無視できません。
しかも、共和党にとって厳しい数字はこれだけではありません。
8月末に行われたReuters/Ipsosの世論調査では、トランプ大統領の支持率は33%。
さらに、イラン戦争へのトランプ大統領の対応については71%が不支持と回答し、共和党支持者に限っても40%が不支持という厳しい数字が出ています。

中間選挙への投票意欲についても差が出ています。
「投票意欲が非常に高い」と回答した人は、民主党支持者46%に対して共和党支持者31%。
15ポイントもの差があります。
選挙は支持率だけでは決まりません。
最終的には「どちらの支持者が実際に投票所へ行くのか」が非常に重要です。
その点でも、現在は民主党支持者の方が明らかに勢いづいているのです。
※参照:Polymarket(2026年中間選挙の予測市場) https://polymarket.com/
※参照:Reuters/Ipsos 世論調査(2026年8月末) https://www.reuters.com/world/us/
なぜトランプ支持は崩れ始めたのか
では、なぜここまで共和党に逆風が吹いているのでしょうか。
もちろん理由は一つではありません。
ガソリン価格、インフレ、経済政策など、複数の要因があります。
しかし、このチャンネルで継続的に追いかけてきた大きな要因があります。
それがイラン戦争です。
そして、その背後にあるのがイスラエル問題です。
私は、イラン戦争は単にアメリカの外交政策を変えただけではなく、トランプ大統領を支えてきたMAGAそのものを分裂させる「分水嶺」になったと考えています。
その象徴的な出来事が、
ドナルド・トランプ対タッカー・カールソン
の決裂です。

タッカー・カールソンは以前から、
「アメリカ・ファーストと言いながら、なぜアメリカがイスラエルの戦争に巻き込まれなければならないのか」
という立場を取り続けてきました。
スティーブ・バノンやマージョリー・テイラー・グリーンなど、MAGA内部の反戦・反介入派からも同様の疑問が噴き出しました。
その一方には、テッド・クルーズ、マーク・レヴィン、ベン・シャピロなど、イスラエルとの強固な関係を支持する保守派がいます。
ここでMAGAの内部に大きな対立軸が生まれたのです。
私はこれを、
「アメリカ・ファースト vs イスラエル・ファースト」
という構図で説明してきました。

もちろん、親イスラエル派自身が自分たちを「イスラエル・ファースト」と呼んでいるわけではありません。
これはあくまで反介入派から見た批判的な表現です。
しかし、「アメリカの国益を最優先する」として誕生した運動が、イスラエルとイランの戦争にアメリカ軍を投入し、アメリカ国民の税金を投入するのであれば、それは本当に「アメリカ・ファースト」なのか。
MAGA内部からこの疑問が出てくるのは当然でしょう。
崩壊しているのは共和党だけではない
ここまでなら、
「共和党が内部分裂している。だから民主党が勝つ」
という、ごく普通の政治の話です。
しかし、本当に重要なのはここからです。
では、その民主党は一枚岩なのでしょうか。
答えは「ノー」です。
民主党の内部でも、これまでの党主流派とは異なる勢力が急速に力を持ち始めています。
従来の民主党には、党指導部を中心とした既成勢力があります。
大企業や大口献金者との関係を持ち、イスラエル・ロビーとも深い関係を築いてきた。
外交政策でも親イスラエル派の議員が大きな影響力を持ってきました。
ところが、その民主党の内部から新しい勢力が伸びています。
その中心的存在が、
DSA(Democratic Socialists of America/アメリカ民主社会主義者)
です。
DSAは現在、アメリカ最大級の社会主義政治組織となっています。
そしてDSAだけではありません。
親パレスチナ運動、イスラム系政治運動、若い進歩派などが連携しながら、民主党内部で存在感を強めています。
これまでAIPACなど親イスラエル系の政治資金によって支援されてきた民主党候補に対して、こうした勢力が予備選挙で挑戦し、実際に勝利するケースまで出てきました。
つまり民主党の内部でも、
「既成民主党 vs 新興左派・親パレスチナ勢力」
という衝突が始まっているのです。

「レッド・グリーン同盟」とは何なのか
私はこれまで、この新しい政治連携を説明するために「レッド・グリーン同盟」という言葉を使ってきました。
「レッド」とは、DSAを含む社会主義・マルクス主義系の左派勢力。
「グリーン」とは、イスラム系・親パレスチナ系の政治勢力を指します。
この両者には、もちろん思想的に一致しない部分もあります。
社会主義左派とイスラム主義では、宗教観や社会観など大きく異なる。
しかし、アメリカ国内政治においては、イスラエル政策、パレスチナ問題、反既成政治などをめぐって政治的利害が一致する場面があります。
その結果、選挙や政治運動で緩やかな連携が形成されている。
これが、私が「レッド・グリーン同盟」と呼んできたものです。

注意していただきたいのは、「レッド・グリーン同盟」という名前の単一の公式組織が存在するという意味ではないことです。
複数の組織、政治家、活動家、資金ネットワークが重なりながら形成している政治的な連携として捉える必要があります。
そして2026年、この勢力が民主党内部の選挙で実際に結果を出し始めています。
ミシガンで起きた「3000万ドルでも勝てない」という衝撃
その象徴的な出来事の一つがミシガン州です。
民主党の連邦議員候補を決める予備選挙で、イスラム教徒で進歩派のアブドゥル・エルサイードが勝利しました。
エルサイードはDSAから支持を受け、イスラエル政策を厳しく批判してきた政治家です。
これに対したのが、民主党主流派で親イスラエル色の強い現職議員ヘイリー・スティーブンスでした。
この選挙で注目されたのが、親イスラエル系政治勢力による巨額の資金投入です。
配信で紹介したAP通信の報道によれば、AIPACとその関連勢力がスティーブンスを支援するために投じた金額は3000万ドルを超える規模に達しました。
それでも勝てなかった。

ここが非常に重要です。
これまでアメリカ政治、とりわけ連邦議会選挙において、AIPACを中心とする親イスラエル系の政治ネットワークは非常に大きな影響力を持ってきました。
その巨額の資金力をもってしても、民主党予備選挙で新興勢力を止められないケースが出てきた。
これは民主党内部の力関係が変わりつつあることを象徴しています。
※参照:AP通信(ミシガン州民主党上院予備選) https://apnews.com/hub/michigan
さらに興味深いのは、その後です。
予備選挙で敗れた側の親イスラエル勢力は、本選挙ではエルサイードを倒す方向へ動く。
つまり場合によっては、民主党の候補を倒すため共和党側を支援する構図まで生まれるわけです。
ここから分かることがあります。
現在のアメリカ政治を理解するとき、
「共和党か民主党か」だけを見ていては本質が分からなくなっている
ということです。
ニューヨークでも起きている民主党内部の反乱
同様の現象はニューヨークでも起きています。
象徴的な人物が、ニューヨーク市長ゾーラン・マムダニです。
マムダニは民主社会主義者であり、親パレスチナ色の強い政治家です。
そしてマムダニが支援した候補たちが、2026年の民主党予備選挙で相次いで勝利しています。

これは一つ、二つの偶然の選挙結果として片づけるべきではないでしょう。
ニューヨークは民主党にとって巨大な政治基盤です。
そこで既成民主党に対する反乱が起き、新しい左派勢力が勝ち始めている。
さらに同様の動きは、コネチカット州などにも広がりつつあります。
民主党が選挙で共和党に勝つとしても、その「民主党」がバイデン時代、クリントン時代の民主党と同じだとは限らないのです。
むしろ党の内部そのものが変わっていく可能性があります。
二大政党の「対立軸」が変わり始めた
ここまでを整理してみましょう。
共和党内部では、
親イスラエル保守 vs アメリカ・ファースト/反介入派
という衝突が起きています。
民主党内部では、
既成民主党 vs DSA・親パレスチナ系の新興勢力
という衝突が起きています。

つまり、2026年の中間選挙で起きようとしていることは、単なる「トランプ政権への反発」ではありません。
もっと大きな、
アメリカ二大政党の内部構造の変化
として見る必要があります。
そして、その変化をさらに象徴する人物が二人います。
JDヴァンスとAOCです。
JDヴァンスがイスラエル・ロビーとの「関係修復」に動き始めた?
まず、JDヴァンス副大統領です。
私は以前から、2028年の共和党大統領候補としてJDヴァンスが最有力候補の一人になると予測してきました。
注目してきたのは、彼とイスラエルとの関係です。
イラン戦争をめぐり、ヴァンスはイスラエル政府に対して厳しい姿勢を見せる場面がありました。
そしてもう一つ重要なのが、タッカー・カールソンとの関係です。
トランプ大統領とタッカー・カールソンの対立が激化しても、ヴァンスはタッカーを完全に切り捨ててはいません。
少なくともこれまでのヴァンスには、MAGAの「アメリカ・ファースト」派へ配慮する姿勢が残っていたと見ることができます。
ただ、私は以前から一つの疑問を持っていました。
この姿勢を2028年まで維持できるのか?
ということです。
アメリカの大統領選挙には莫大な資金が必要です。
共和党の資金ネットワークには、イスラエルを強く支持する大口献金者も存在します。
予備選挙を自力の資金ネットワークで突破できたとしても、本選挙では桁違いの選挙資金が必要になる。
そのときヴァンスはどうするのか。
そこを注視していたところ、非常に興味深い出来事が起きました。
8月31日、ラスベガスでRJC(Republican Jewish Coalition)の年次サミットが開催され、JDヴァンスが登壇しました。
RJCは共和党内で大きな影響力を持つユダヤ系・親イスラエル政治組織です。
しかもヴァンスの発言は報道陣には非公開でした。
報道では、今回の訪問を、ヴァンスに不信感を持つ親イスラエル系共和党員との「関係修復」の動きとして見る分析も出ています。
この点をより具体的に報じているのがワシントン・ポストです。
同紙によれば、そもそも今回の訪問は、ヴァンスに不信感を持っている共和党内の親イスラエル勢力に対する「オリーブの枝」——つまり関係修復のための動きとして企画されたと報じられています。
RJCは、共和党の政治家と親イスラエル系の活動家、そして有力ドナーをつなぐ、重要な政治ネットワークです。
実際、RJCの理事で共和党の資金調達に関わってきたエリック・レヴィン氏は、ヴァンスのこれまでのイスラエルに関する発言には問題があるとしながらも、今回の参加を「我々の信頼を得ようとする重要な一歩」という趣旨で評価しています。
さらに興味深いのが、会場です。
ラスベガスのヴェネチアン。共和党の巨大ドナーとして知られるアデルソン家と深い関係を持つ場所です。
つまりヴァンスは、2028年を前に、親イスラエル共和党の重要な資金・政治ネットワークの中へ、自ら入っていったということです。

もちろん、非公開の場で何を話したのか分からない以上、
「JDヴァンスがイスラエル・ロビーに屈服した」
と断定することはできません。
しかし政治的なシグナルとしては非常に重要です。
イラン戦争でイスラエル側に批判的な姿勢を見せ、タッカー・カールソンも切らなかった。
その結果、一部の親イスラエル共和党員から「ヴァンスを信用していいのか」という疑念が生まれた。
そして2028年が近づく中、ヴァンス自身がRJCの会合に出向いた。
少なくとも、
親イスラエル系共和党との関係修復を始めた
と見る余地は十分にあるでしょう。
※参照:Republican Jewish Coalition(2026年8月31日・ラスベガス年次サミット) https://www.rjchq.org/
「なぜ非公開なんだ?」という批判も出ている

この動きに、正面から反発している人たちもいます。
AIPACなどのイスラエル・ロビーを批判的に監視している「TrackAIPAC」です。
TrackAIPACはX上で、ヴァンスが親イスラエルのドナーたちと非公開で会っていること自体を問題視し、こう批判しました。
「報道陣は一切入れない。国民に聞かせたくない何を話しているのか?」
もちろん、これはTrackAIPAC側の政治的な批判です。そのまま事実として受け取るべきものではありません。
ただ、「非公開の会合である」という一点が、支持する側からも批判する側からも注目されている。それだけの重みを持つ会合だった、ということでもあります。
ヴァンス最大の弱点は「タッカー」になるのか

ワシントン・ポストの報道でもう一つ興味深いのが、RJCの内部で、ヴァンスとタッカー・カールソンの関係そのものが2028年の試金石になり始めているという点です。
RJCの会合では、タッカーの名前が出ると、ヴァンスとの関係を問題視する声まで出たと報じられています。
ある親イスラエル系の共和党支持者は、マルコ・ルビオについてはイスラエルを支持しているかどうかに疑問はない。しかしJDには多くの疑問がある——という趣旨の発言をしています。
これは非常に重要です。
なぜなら2028年の共和党大統領候補として考えたとき、ヴァンスには潜在的なライバルがいるからです。その一人がマルコ・ルビオです。
親イスラエル勢力から見れば、ルビオの方が安心できる。
一方のヴァンスは、タッカーとの関係がある。イスラエルを批判したこともある。イランとの和平にも関わった。
だから「本当にヴァンスでいいのか?」という疑問が残るわけです。
だとすると、2028年に向けてヴァンスは、非常に難しい選択を迫られることになります。
アメリカ・ファーストの支持者を維持しながら、親イスラエル共和党とも関係を修復する。この二つを同時にできるのか。
私はここを、これから注目していきたいと思っています。
トランプもかつて同じ道を通った
ここで思い出してほしいのが、2016年のドナルド・トランプです。
トランプは大統領選挙初期、共和党内のユダヤ系大口献金者を前に、自分は彼らから資金を受け取る必要がないという趣旨の発言をしていました。
既成政治家とは違う。
大口献金者に支配されない。
それが当初のトランプの大きな魅力でもありました。
しかし、本選挙へ進めば事情は変わります。
アメリカ大統領選挙は巨額の資金を必要とするからです。
私は、JDヴァンスについても同じ問題がいずれ出てくると考えていました。

そして2028年を待たずして、すでにその兆候が現れ始めているのではないか。
ここは今後、非常に重要な観察ポイントになると思います。
民主党の2028年最有力候補はAOCなのか
一方、民主党で注目したい人物がAOCこと、
アレクサンドリア・オカシオ=コルテス
です。
日本ではまだそこまで大きく報道されませんが、アメリカでは民主党左派・民主社会主義系を象徴する政治家の一人です。
興味深いことに、JDヴァンス自身が2028年民主党大統領候補について聞かれた際、有力候補としてAOCの名前を挙げています。
AOC本人も2028年大統領選挙への出馬を明確には否定していません。
陣営のスタッフ再編など、将来の大きな選挙を意識しているのではないかと思わせる動きも報じられています。
もちろん、まだ2026年です。
JDヴァンスもAOCも、2028年大統領選挙への正式な立候補を表明しているわけではありません。
したがって、ここから先はあくまで私の予測です。
しかし私は以前から、
2028年大統領選挙が「JDヴァンス vs AOC」になる可能性
に注目しています。

もし本当にこの対決になれば、非常に象徴的な選挙になります。
「JDヴァンス vs AOC」が意味するもの
なぜこの組み合わせが重要なのか。
それは二人が単なる共和党候補、民主党候補ではないからです。
共和党では、ブッシュ時代に象徴された従来型のネオコン共和党ではなく、MAGAから登場したJDヴァンス。
民主党では、クリントンやバイデンに象徴された既成民主党ではなく、DSAに近い進歩派を象徴するAOC。
つまり、
「古い共和党 vs 古い民主党」ではない選挙
になる可能性があるのです。

両党とも内部から大きく作り替えられた後の、新しい右派と新しい左派の戦いです。
ただし、ここでさらに重要なのがイスラエル問題です。
共和党では、2028年の大統領選挙に向けてJDヴァンスが親イスラエル系資金ネットワークとの関係をどのように構築するのか。
民主党では、AOCを象徴とする左派と、親パレスチナ・イスラム系政治勢力との連携がどこまで拡大するのか。
この二つの動きを追っていくと、イスラエルという問題がアメリカ二大政党の再編そのものに深く関わっていることが見えてきます。
「共和党が負け、民主党が勝つ」では説明できない
改めてまとめます。
現在、予測市場では民主党による下院奪還の可能性が高く見積もられています。
トランプ大統領の支持率は低迷し、イラン戦争への不満も大きい。
このままいけば共和党は11月の中間選挙で非常に厳しい戦いを強いられる可能性があります。
しかし、
「これで民主党の時代が戻ってくる」
と考えるのは早すぎます。
なぜなら、その民主党自身が変質し始めているからです。
いま起きているのは、
共和党が負けて民主党が勝つという単純な政権交代ではありません。
アメリカの二大政党そのものが、内部から組み換えられようとしている。
私はそのように見ています。
そして、その先に2028年大統領選挙があります。
もしJDヴァンス対AOCという対決になれば、それは単なる二人の政治家の戦いではありません。
トランプとバイデンの時代が終わった後、
「アメリカという国家がどちらへ進むのか」
を決める戦いになる可能性があります。

アメリカを引き裂く「イスラエル」と「イスラム」
ここからさらに視野を広げる必要があります。
現在のアメリカは、イスラエルをめぐる問題と、急速に政治力を拡大するイスラム系勢力の双方によって大きく揺さぶられています。
そして左派とイスラム系政治勢力の連携、つまり先ほど説明した「レッド・グリーン同盟」も無視できない存在になっています。
イスラム系政治運動について考えるとき、過去にイスラム主義者側で作成された長期戦略文書などについても検証する必要があります。
個人レベルでの宗教実践から始まり、コミュニティを形成し、社会的・政治的影響力を強め、最終的には国家レベルへ進むという段階的な構想です。

ただし、こうした文書が存在することと、すべてのイスラム教徒やイスラム系移民が同じ政治目的を持っていることは当然ながら別問題です。
ここを混同してはいけません。
重要なのは、特定の政治組織や運動がどのような戦略を持ち、どのような資金・組織ネットワークを形成しているのかを個別に検証することです。
現在のアメリカでは、ニューヨークやミシガンなど、イスラム系住民の多い地域で政治的影響力が強まっています。
それ自体は民主主義社会における人口構成の変化が政治に反映された結果でもあります。
しかし、それがDSAなど急進左派との連携によって一つの政治ブロックを形成するようになれば、アメリカの政党政治そのものを変える可能性があります。
これは日本にとっても他人事ではない
そして、この問題は決してアメリカだけの話ではありません。
日本でも外国人労働者や移民政策をめぐる議論が急速に重要になっています。
今後、日本で外国人労働者の受け入れが拡大し、長期滞在や家族帯同、永住、帰化などが増えていけば、当然ながら日本社会の人口構成も変化します。
人口構成が変われば、地域社会も変わる。
そして長期的には政治にも影響します。
だからこそ私は、単純な「外国人を受け入れるか、受け入れないか」という議論ではなく、
20年後、30年後にどのような社会をつくりたいのか
という国家戦略として移民政策を議論する必要があると考えています。
欧米で起きていることを検証せず、「人手不足だから」という短期的な経済合理性だけで政策を進めるべきではありません。
世界そのものが「西洋」と「非西洋」に再編されている
さらに大きな視点で見ると、現在起きているのはアメリカ国内政治の変化だけではありません。
世界秩序そのものが変わっています。
私は最近の配信で、
「西洋世界」と「非西洋世界」の再編
について繰り返しお話ししてきました。
上海協力機構(SCO)には、中国、ロシア、イラン、インドなどが参加しています。
ドルへの依存を低下させる金融制度や、新しい開発銀行構想なども議論されています。
中東でも各国の関係は急速に変化しています。
中国、ロシア、イランと中東諸国との関係。
サウジアラビア、トルコ、パキスタン、エジプトなどをめぐる安全保障の動き。
世界はもはや、冷戦後の「アメリカ一極支配」の延長線上だけでは説明できません。
西洋諸国とは異なる独自の政治・経済・安全保障ネットワークが形成され始めています。

日本は「中道」のポジションを取るべきではないか
この世界構造の変化を考えたとき、日本にとって最も重要なのは、
どちらか一方の陣営に完全に固定されないこと
だと私は考えています。
現在の日本は、安全保障をアメリカとの同盟に大きく依存しています。
しかし世界が西洋と非西洋に分裂していけば、片方の陣営に完全に組み込まれていること自体がリスクになる可能性があります。
アメリカ自身が国内で激しく分裂し、その外交政策も大きく揺れている。
そのアメリカに日本の将来を全面的に委ね続けてよいのでしょうか。
だからこそ、日本には独自の外交軸が必要です。
アメリカとも付き合う。
中国とも付き合う。
中東とも付き合う。
ロシアとも、必要な対話のチャンネルは残す。
西洋にも非西洋にも完全には飲み込まれず、双方の間をつなぐ。
私は、日本がそのような「中道国家」としてのポジションを目指すことに大きな意味があると考えています。

アメリカ二大政党の崩壊は「世界秩序の変化」の一部である
今回見てきたアメリカ政治の変化を、最後にもう一度整理しましょう。
共和党では、イラン戦争とイスラエル問題をめぐってMAGAが分裂しています。
トランプ大統領とタッカー・カールソンの決裂は、その象徴です。
民主党では、既成民主党に対してDSAや親パレスチナ系の新興勢力が挑戦し、実際の選挙で勝ち始めています。
その結果、
共和党 vs 民主党
という従来の構図だけでは、アメリカ政治を説明できなくなりつつあります。
共和党の内部で戦いがある。
民主党の内部でも戦いがある。
そして、その双方にイスラエル問題が深く関わっている。
2026年中間選挙は、この巨大な政治再編の「途中経過」にすぎないのかもしれません。
本当に大きな変化が見えてくるのは、その先の2028年でしょう。
JDヴァンスはMAGAの「アメリカ・ファースト」を維持するのか。
それとも大統領選挙を戦うために、従来の共和党資金ネットワークとの関係を深めていくのか。
民主党ではAOCをはじめとする新左派がどこまで勢力を伸ばすのか。
DSAと親パレスチナ・イスラム系政治勢力の連携はどこまで拡大するのか。
そして、アメリカという国家そのものがどちらへ向かうのか。
これは単なるアメリカ国内の選挙ニュースではありません。
アメリカが変われば、世界が変わります。
当然、日本も無関係ではいられません。
だからこそ私たちは、目の前の「共和党が勝った」「民主党が勝った」というニュースだけを見るのではなく、
その背後でどの勢力が伸び、どの勢力が衰退し、アメリカの権力構造そのものがどう変わっているのか
を見ていく必要があります。
共和党も民主党も、私たちが知っているこれまでの共和党・民主党ではなくなるかもしれない。
その政治的大転換は、すでに始まっています。
ここまでお読みくださりありがとうございます。また次の記事でお目にかかりましょう。
今回の内容をさらに詳しく解説した動画は、私のYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. Polymarketの「87%」は、民主党が下院を取ることが確定したという意味ですか?
いいえ、違います。Polymarketは世論調査ではなく、参加者が実際に資金を投じて将来の出来事を予測する「予測市場」です。したがって「87%の確率で必ず民主党が勝つ」という意味ではありません。ただし、市場参加者がそれほど強く共和党の議席喪失を織り込み始めているという事実自体は無視できません。
Q2. 「アメリカ・ファースト vs イスラエル・ファースト」とは誰が使っている表現ですか?
これは反介入派の側から見た批判的な表現であり、親イスラエル派が自分たちを「イスラエル・ファースト」と呼んでいるわけではありません。ただし、アメリカの国益を最優先すると掲げて誕生した運動が、イスラエルとイランの戦争にアメリカ軍と税金を投入するのであれば、それは本当にアメリカ・ファーストなのか——MAGA内部からこの疑問が出るのは当然でしょう。
Q3. 「レッド・グリーン同盟」という組織が実在するのですか?
その名前の単一の公式組織が存在するという意味ではありません。社会主義・マルクス主義系の左派(レッド)と、イスラム系・親パレスチナ系の政治勢力(グリーン)が、イスラエル政策や反既成政治といった論点で政治的利害が一致する場面において緩やかに連携している——複数の組織・政治家・活動家・資金ネットワークが重なって形成されている政治的な連携として捉える必要があります。
Q4. JDヴァンス副大統領はイスラエル・ロビーに屈服したということですか?
そう断定することはできません。2026年8月31日にRJC(Republican Jewish Coalition)の年次サミットへ登壇したことは事実ですが、発言は報道陣に非公開であり、何を話したのかは分かりません。ただし政治的なシグナルとしては重要で、親イスラエル系共和党との関係修復を始めたと見る余地は十分にある、というところまでです。

