8月2日の夜、ペロシ下院議長が台湾入りした。
このペロシ訪台は日本にとって祝福となるか?それとも台湾有事を前倒しする凶因となるか?
結論から言うと、私は日本にとってはマイナスとなると見ている。
バイデン大統領の本音「今は台湾訪問の時期ではない」
その理由に入る前に、ペロシ訪台が米中日でどう受け止められているかを見てみよう。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は2日、ペロシ下院議長の訪台をめぐり、「バイデン大統領は訪問を尊重している」と述べた。
産経新聞「米「大統領はペロシ氏の訪台尊重」
しかし、バイデン大統領は当初、下院議長の訪台に慎重な構えを示していた。
バイデン大統領は先月20日、「軍はいま行くのはよい考えだとは思っていない」と述べたほか、有力紙、ワシントン・ポストは、先月23日、バイデン政権は台湾海峡の緊張が一気に高まることを懸念し、ペロシ議長に対し、訪問のリスクを説明したと伝えました。
NHK「アメリカ ペロシ下院議長 台湾訪問」
このバイデンの慎重な姿勢に対して、マイク・ポンペオ元国務長官は31日(現地時間)、次のように批判している。
ポンペオ氏「ペロシ議長は台湾を訪問したいという意向を明らかにしたがバイデン政府は賢い考えではないかもしれないと話している」と指摘して、「米国が中国の宣伝によって嫌がらせを受けるがままにしておくことは、それも米中首脳が長い電話会談を行った直後にそのようにすることは、オーストラリア・韓国・日本など領域内の友邦に本当に悪いメッセージを送ることになるだろう」と述べた。
中央日報『ポンペオ元米国務長官「バイデンの台湾政策、韓日などに悪いメッセージ送ることになる」』
ポンペオ氏といえばトランプ前大統領の側近ではあるが、ネオコン勢力に所属している議員である。
ではトランプ前大統領は今回のペロシ氏訪台をどう見ているのか。
トランプ前大統領、ペロシ訪台を批判
共和党の一部の議員はペロシ訪台を称賛するが、トランプ氏はこのように真っ向から批判している。
クレイジー ナンシー ペロシはなぜ台湾にいるのか。
出典:Truth Social
彼女はいつも問題を引き起こす。彼女のやることは何もかもうまくいかない。(2度の弾劾失敗、下院の損失、など)。見てください!
※トランプはこのようにペロシ訪台については否定的な意見だが、彼の立場から見れば当然と言える。このことは後述する。
中国側はペロシ訪台に強く抗議
中国側はペロシ訪台に対して強く非難している。
●中国外務省「重大な政治的な挑発で、中国は絶対に認めない」「中国は必ず一切の必要な措置をとり、国家主権と領土保全を断固として守り抜く」
●新華社は『中国人民解放軍が4~7日に台湾周辺の複数の空・海域で、実弾射撃を伴う「重要軍事演習」を行う』と伝えた
●人民解放軍の軍用機は深夜に艦隊の規模を拡大し、2日に合計21回の出撃が台湾の「空域」に入った
●報道によると、台湾軍関係者は今朝(3日)、台湾軍が午前2時に花蓮港沖37海里を南下する人民解放軍誘導ミサイル駆逐艦を「監視」していたと述べた。
中国側はこのように今回のペロシ訪台に対して強い非難と軍事行動を表明している。
ペロシ訪台に沸く、日本の保守言論界
では、日本の言論界ではどうか?
保守言論界では、ペロシ訪台に賛同する意見が多い。
保守系言論人たちは中国の脅しに屈することなく、台湾を訪れ、台湾有事に共闘の姿勢を明示するペロシ氏に賛同するという立場を取っている。
そうした心情に理解は示しながらも、私は今回のペロシ訪台は拙速だったと見て、冷ややかに情勢を観察している。
まず、ペロシはなぜこのタイミングで台湾を訪問したのか?しかも、軍部の反対のなか、大統領の賛意を取り付けることもなく、である。
ペロシはなぜこのタイミングで訪台したのか?
日経新聞のワシントン支局長 大越匡洋氏が昨日投稿したこちらの記事がヒントになる。
少々長いが重要なので引用する。
民主化を求める学生らを中国共産党が武力で鎮圧した天安門事件の2年後の1991年、ペロシ氏は北京の天安門広場で「中国の民主主義のために亡くなった人々に」と記した旗を掲げた。チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世とも面会している。
民主主義国家の政治家として、法の支配や人権を顧みない中国を厳しく批判すること自体は当たり前だ。米議会は民主党だけでなく、野党の共和党も「反中国」という点で足並みをそろえている。
問題は、米政権が与党内の一政治家の「信念」に基づく行動を持て余していることだ。バイデン大統領はペロシ氏の訪台計画について「米軍は今は良くないと考えている」と記者団に漏らしたものの、三権分立のなかで下院議長の行動を制約することはできず、民主党政権の首脳間の意思疎通の悪さを露呈しただけに終わった。
ペロシ氏がこの時期の訪台を決めたのは、単に議会が夏休みに入ったから。11月の中間選挙で民主党は下院の多数派の地位を失うのは確実とされ、ペロシ氏が議長でいられる時間も秒読みに入った。対中戦略の一環というより、米下院議長として四半世紀ぶりとなる訪台を自ら実現したいという政治家個人のエゴが先走った印象は残る。
米国からすれば、中国が台湾を力ずくで統一しようとする動きを先んじて制する戦略の一環だということもできるが、中国からみると、米国が米中関係の基礎である「一つの中国」政策を徐々にないがしろにしていると映る。双方の主張は国内世論もにらんで平行線をたどり、強硬な言説が強硬な行動を招く悪循環に陥ろうとしている。
台湾問題がちょっとしたきっかけで導火線に火がつきかねないアジアの火薬庫であることが改めて明白になった。米中間の誤解を回避しようと7月28日に電話協議に臨んだバイデン大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席のメンツはともに失われた。
バイデン政権は「ペロシ訪台後」のシナリオを描けていない。
一方、中国当局者に危機のエスカレーションを止める策をただしても「事態を悪化させているのは米国。米国が矛を収めるべきだ」との趣旨の言葉が返ってくるだけだ。ペロシ氏の訪台直後、中国外務省は「あらゆる必要な措置を必ず講じる」と「報復」を宣言した。
当事者である台湾、日本はいや応なく巻き込まれる。一部の日本企業は台湾有事の危機管理計画の策定を急いでいる。危機の波は繰り返し迫ると考えたほうがいい。
ペロシ氏の訪台はワシントンとの調整も連携もとられていない言ってみれば「独断」で断行されたもの。
大統領や軍部の了承なく米中対立の火薬庫に引火するきっかけになりえる重大な外交カードを切ったペロシ氏に、訪台後の深謀遠慮があるようには見えない。
ペロシ訪台は4月に予定されていた
そして、もう1つ興味深い事実がある。
ペロシ氏はすでに今年の4月に台湾を訪れる計画を持っていたのである。
しかし、コロナに感染し、アジア訪問を延期せざるを得なくなった。
そしてペロシ氏はこの時、岸田首相とも会談する予定だったことも明らかとなっている。
つまり、ペロシ下院議長は4ヶ月前からこの訪台というカードを握り締めていたのだ。
今回ペロシ氏は満を辞して台湾を訪問しているということだ。
またペロシ氏は8月3日〜5日の臨時国会中に予定されていた安倍元首相の追悼演説を傍聴する予定だったという。
外務省関係者は「中国を警戒したようだ。ペロシ氏は、凶弾に倒れた安倍氏を『民主主義の英雄』とたたえ、当初5日の臨時国会で予定されていた『国会での安倍氏の追悼演説』の傍聴を切望していた。ペロシ氏はその足で台湾に飛び、蔡英文総統に、安倍氏の『台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事だ』という言葉を伝え、米国の決意を告げる計画があった」と明かす。臨時国会での追悼演説は、与野党の異論噴出で先送りになった。
ペロシ下院議長が安倍首相を『民主主義の英雄』と本気で考えていたかは別としても、暗殺された安倍氏の遺志を引き継ぎ、台湾を訪れるという物語を政治利用する価値は大きかったと考えられる。
安倍元首相は暗殺されなければ7月末に台湾を訪問する予定だった
上記の記事によれば、安倍氏は銃撃された2ヶ月ほど前に、台湾を訪問することが決まっていたという。
そして、中国はこの安倍氏の訪台を危険視し、極秘裏にこの計画をつぶそうとしていたと書かれている。
実は、中国が「ペロシ氏の訪台」以上に警戒し、「『絶対に潰せ!』と極秘指令を出していた重大案件がある」(公安関係者)。それが、安倍氏の訪台だ。
https://www.zakzak.co.jp/article/20220802-5KWKSYSHGFNAZKSUADUFN56KMM/?outputType=amp
安倍氏の訪台は今年5月、一部台湾メディアで報じられた。暗殺の1週間前、台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表(駐日大使に相当)から招聘(しょうへい)を受け、安倍氏は快諾したとされる。予定では、敬愛する李登輝元総統の命日である「7月30日」に訪台するはずだった。
中国が、いかに安倍氏を恐れていたか。驚愕(きょうがく)情報を報告する。以下、日米情報当局からに入手した情報だ。
「中国は『安倍氏を台湾に行かせるな。強行するなら報復する』と、日本を水面下で脅迫していた。中国やロシア、北朝鮮の工作員まで動いていた。安倍氏も、官邸も、警察当局も把握していた。一方で、奈良県警の〝手抜き警備〟は前代未聞だった」
私は安倍元首相の暗殺が組織的犯行の可能性があると見ているが、山上容疑者の背後に中国共産党の勢力が関係しているという情報も流通しており、私のYouTubeでも一度取り上げている。
政府や警察当局には上記の可能性を排除せず、真相の究明を進めてほしい。
ネオコン国務次官、ビクトリア・ヌーランドの来日は偶然か?
さて、話を戻すと、ペロシ氏は台湾でのミッションを終えたあと、明日8月4日には日本を訪れ、岸田首相との朝食会に出席することになっている。
これも違和感がある。なぜアメリカの下院議長が日本の首相と会うのだろうか。ペロシ氏はホワイトハウスの意向を受けているわけでも、バイデン大統領からの外交的なミッションを背負っているわけでもない。もし会うなら外務大臣か幹事長クラスで十分ではないだろうか。
ここで思い出すのが、先日来日した米国国務次官のビクトリア・ヌーランドである。
ヌーランドはオバマ政権時代、ウクライナの親露政権を転覆させたアメリカの傀儡政権にすげかえた民主革命『マイダン革命』に全面的に関与した事実がある。
その後のウクライナはNATO入りを目指し突き進んでいくが、その背後にはアメリカがいた。そして、その中枢にはこのヌーランドがいた。
その8年後の2022年2月にウクライナとロシアで紛争が勃発するが、そのレールを敷いた中心人物がヌーランドということになる。
ヌーランド国務次官は祖父がウクライナ系のユダヤ人であり、思想的にはネオコンサーバティブ(ネオコン)である。
旦那ロバート・ケーガンもネオコンの論客という夫婦そろっての筋金入りのネオコン政治家として知られている。
ネオコンとは、「自由と民主主義を世界に輸出するためなら手段も選ばない」というイデオロギーを持つアメリカの保守政治思想の1つであり、特定の団体や組織を指すものではないが、この思想のもとに、戦争で金儲けを企む軍需産業や銀行家たちがひとまとまりの利害集団を形成している。
ヌーランドはこのネオコン一派と考えてよい。
ちなみに、バイデン政権の国防長官ロイド・オースティンもネオコンであり、レイセオン・テクノロジーという大手兵器会社の役員を務めているが、このウクライナ紛争の間にレイセオン社の株価は急騰している。
ネオコン勢力が政権内部に入り込んでいたクリントン、ブッシュ、オバマ時代には、ユーゴ空爆、コソボ紛争、イラク戦争とアフガニスタン戦争の継続、リビア戦争、シリア内戦、ウクライナ政変(マイダン革命)、イエメン内戦など多くの紛争・戦争・政変が起こっている。
ネオコンが戦争屋と揶揄されるのは、戦争によって軍需企業を潤わせるあからさまな外交手法が所以となっている。
今回のペロシ下院議長の訪台に強い賛同を示している共和党議員の多くがこのネオコン一派である。(マイク・ポンペオ氏もネオコンと言われている。)
トランプ前政権にもネオコンが潜り込んではいたが、トランプはアメリカファーストというコンセプトに集中し、彼らネオコンに活躍の場を与えなかったため、4年間は戦争が起こっていない。
今回トランプがペロシ訪台を強く批判しているのも、ネオコンの手口を知り尽くしているからと見てよい。
訪台の背後にちらつくネオコンの影
今回、ペロシ氏がなかば個人の思いを優先し独断で訪台に踏み切っているが、彼女もネオコンなのだろうか。
ネットを見ているとペロシ氏はネオコンという情報もあるが、裏は取れていないため現段階ではまだ断定はできない。ペロシ氏自身はネオコンではない可能性もある。しかし、彼女の背後にネオコン勢力がいる可能性は考慮すべきだ。
今回のペロシ訪台は、中国を挑発する形となるだけで、具体的な外交的成果が見えない。ホワイトハウス主導の動きではなく訪台後のシナリオも見えない。
ネオコンはアメリカの国益を前提に思考していない。お金と利権と力を保持するため、戦争を手段化する。大義名分として「自由と民主主義」というイデオロギーを振りかざす。
ウクライナ紛争はアメリカとロシアの代理戦争であり、筋道を引いたのはネオコン勢力である。
次の戦争として彼らが考えているのが台湾有事であり、そのための仕込みをしていると仮定すると、今回のペロシの訪台も中国との緊張を意図的に高め、台湾有事開戦を早期化するための1つの手段として実行した可能性を排除できない。
ヌーランド来日とペロシ訪台はネオコンの筋書きか
ここで先述のネオコン国務次官ヌーランドの来日の重みが増してくる。
7月25日、来日したヌーランドは米国大使館でラーム・エマニュエル大使と会っている。
エマニュエル大使はオバマ時代の大統領首席補佐官で、イスラエルとの二重国籍を持つユダヤ人であり、イスラエルロビーである。
ネオコンを支援しているのがイスラエルロビーでもあり、エマニュエル大使は、ネオコン勢力と考えてよい。
日本政府の要職とも頻繁に会談し、ジャパンハンドラーとして知られる人物。
ヌーランドがこのエマニュエル大使に会いにきたことをどう考えればよいか。
ネオコン勢力が描いているウクライナ紛争の「次の戦争」のシナリオについて共有しに来たとは考えられないか。
ウクライナ紛争の背景やネオコン勢力が過去にやってきた戦争を知悉している方なら、これを陰謀論として片付けるようなことはないだろう。
ネオコンの手先であるヌーランドとイスラエル・ロビーでありジャパン・ハンドラーのエマニュエル大使が会ったのが7月25日、今から1週間ほど前。
そして、ペロシの訪台が続き、さらに岸田首相は今日、エマニュエル大使と会談している。
これは果たして偶然なのか。
日本の保守界隈は、ペロシ訪台を歓迎し、中国牽制に大きな成果を得たと満悦を隠さないが、糠喜びにならないことを祈るばかりだ。
このペロシ訪台は日本にとって祝福となるか?それとも台湾有事を前倒しする凶因となるか?
私は後者になる可能性が高いと見ている。
日本政府には冷静にペロシ訪台がもたらす明暗を見定め、日本の国益を守るための的確な意思決定を期待する。
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