こんにちは。金子吉友です。
EUは、27か国の集まりです。そして重要な外交の決定には、原則として全会一致が必要です。
つまり、26か国が賛成しても、1か国が反対すれば、EU全体としての立場はまとまりません。
この一文の意味を、ある国の首相は、誰よりも早く理解していました。
ここ数日、イスラエルと欧州右派の急接近というテーマを追いかけてきました。昨日は、その接近が10年15年かけて進んできた歴史を、年表で整理しましたね。
ところが調べていくと、もう一段深いところに、非常に興味深い構造があることが分かってきました。
現在の接近は、単に「右派同士だから仲良くなった」という話ではありません。少なくともネタニヤフ首相は、かなり以前から「EUそのものを一枚岩として相手にしない」という外交を進めていました。
そしてその味方を使って、EUの対イスラエル政策に、内側から影響を与えようとしていた。
今日は、その話をします。時計を、2017年まで戻します。
ここまでの3回を、先に1分で整理します
今日から読まれる方のために、ここ数回でお伝えしてきたことを、先に短くまとめておきます。
イスラエル政府が現在、関係を深めている欧州の右派政党はこれだけあります。
- イギリスのリフォームUK
- フランスの国民連合(RN)
- スペインのVox
- スウェーデン民主党
- オランダの自由党(PVV)
- ハンガリーのフィデス
いずれも「反グローバリズム」を掲げ、西側メディアからは「極右政党」と位置づけられる政党です。
そして接近の時系列がこうでした。 2009年前後にネタニヤフ時代が始まり、2010年代にオルバン、ウィルダース、サルヴィーニといったナショナリスト政治家へ個別に接近。2015年のシリア内戦を機とした大量移民の流入が転換点となり、欧州右派が「反移民」を掲げて勢力を拡大。2018〜19年に両者の関係が目に見えて拡大し、2022年にイスラエルの右傾化と欧州右派の台頭が重なり、2023年10月7日のハマスのテロが巨大な加速要因になった。
そして2024〜25年、イスラエルのサアール外相が政府レベルでの関係構築を指示し、2025年にはネタニヤフ首相のリクードが、欧州議会の右派会派「Patriots for Europe」にオブザーバー参加します。 ここで両者は、もう隠しようもなく同盟関係にあることが表に出ました。
橋渡し役を務めてきたのが、ディアスポラ問題・反ユダヤ主義対策担当大臣のアミハイ・チクリ氏。 そして両者を結ぶ共通の政治言語が、「移民問題」「イスラム主義への警戒」「国家主権」、そして「ユダヤ・キリスト教文明=西洋文明を我々が守っている」という論理でした。
なお、私が持っていた「反グローバリズムそのものがイスラエルのマーケティングなのではないか」という仮説については、 半分正解で、半分間違いだったと申し上げておきます。 イスラエルが意図的に接近しているのは確かです。ですが欧州右派の側にも、積極的にイスラエルへ近づく理由があった。 そこは昨日、詳しくお話ししたとおりです。
では今日は、そこからさらに一段深く——イスラエルがEUの「中」にどうやって味方を増やし、EUの政策そのものに影響を与えてきたのかを、具体的に見ていきます。
2017年7月19日、ブダペスト──切れていなかったマイク

場所はハンガリーの首都、ブダペストです。
ネタニヤフ首相は、東欧4か国の首脳と会談していました。ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキア。この4か国を「V4(ヴィシェグラード4か国)」と呼びます。
そこで、ちょっとした事件が起こります。
会談は非公開という建前でした。ところが、マイクが切れていなかったんです。 ネタニヤフ首相の発言が、別室にいた記者たちに丸聞こえになってしまった。
2017年7月19日、JTA(ユダヤ電報通信)の記事に、このときの発言が記録されています。
では、何を言っていたのか。
EUがイスラエルとの関係強化を、和平の進展など政治的な条件と結びつけていることについて、彼はこう言いました。
「クレイジーだ。本当にクレイジーだ」
さらに、イスラエルとの関係を弱めることは、ヨーロッパ自身の安全保障や経済的な利益を損なう——という趣旨の話までしています。「これ以上こちらに対抗するなら、我々の態度も考えますよ」ということですね。
そしてV4の首脳たちに、こう求めました。
「EUの対イスラエル政策を変えるよう、EUの内部から働きかけてほしい」
ここが、今日の出発点です。
EUは一つの国家ではない──そして「全会一致」という穴

イスラエルにとって、ヨーロッパは無視できない相手です
イスラエルにとって最大の同盟国は、もちろんアメリカです。 軍事も外交も経済も、圧倒的に重要です。ですがヨーロッパも、巨大な経済圏として無視できません。
そして外交面では、パレスチナ問題、ヨルダン川西岸の入植地、二国家解決、エルサレムの地位。 こうした問題で、EUはイスラエルとしばしば対立してきました。
ここで重要になるのが、これです。
EUは、一つの国家ではありません。
フランスもEU。ドイツもEU。スペインもEU。 しかし、ハンガリーもEU。チェコもEU。ポーランドもEUなんです。
つまりEUの内部にも、イスラエルに厳しい国と、イスラエルに友好的な国が存在する。ここに、ネタニヤフ外交の一つのポイントがあります。
26対1でも、決まらない
そしてもう一つ、決定的に重要な仕組みがあります。
EUの共通外交・安全保障政策では、重要な決定について原則として加盟国の全会一致が必要です。
27か国のうち26か国が賛成していても、1か国が反対すれば、EU全体の正式な立場としてまとまらないケースがあるということです。
ここを、よく考えてみてください。
イスラエルから見れば、EU加盟国すべてを親イスラエルにする必要はないんです。そんなことは不可能ですし、その必要もない。ある問題について、一か国でも強力な味方がいれば、EU全体としての批判的なまとまりを阻止できる。
イスラエルは、ここに着目しました。
そこで重要になってくるのが、ハンガリーです。そしてヴィクトル・オルバン氏なんですね。
なぜオルバン氏に外交的な価値があるのか。 移民規制、国家主権、キリスト教的価値観、EU中央集権への反発。こうした政策を掲げてきた首相だから——というだけではありません。
決定的なのは、ハンガリーがEUの外にいるのではなく、EUの中にいるということです。
EUを外から批判する政治家ではありません。EU加盟国の首相です。だからEUの意思決定そのものに参加できる。そして場合によっては、その決定を止めることもできる。
「共同声明が出ない」ことの、本当の重み

ここで一つ、補足させてください。「EUの共同声明が出せなかった」と聞いても、日本人にはピンとこないかもしれません。声明が一本出ないだけではないか、と。
ですが、意味はまったく違います。
EUという27か国の共同体が一つの声明を出せば、それは「ヨーロッパの総意」になります。国連の場でも、各国との交渉の場でも、決定的な重みを持つ。ところが声明が出せなければ、批判したい国は個別に声を上げるしかありません。
「EUがイスラエルを非難した」と「フランスとスペインとアイルランドがそれぞれ非難した」では、国際政治における重さがまるで違うんです。
そして、この差を生むのに必要なのは、たった1か国の反対だけです。
26か国を説得する労力と、1か国を味方につける労力。どちらが安いか。答えは考えるまでもありません。 ネタニヤフ首相が着目したのは、まさにこの非対称性でした。
しかも彼が2018年に名指ししたのは、東欧諸国とバルト諸国です。 EUの中でも経済規模が大きいわけではなく、外交的な発言力もフランスやドイツには及ばない国々ですね。 ですが全会一致のルールの下では、拒否権の重さに大国も小国もありません。1票は1票なんです。
2018年、ネタニヤフ本人が戦略を語った

そして翌年、決定的なことが起こります。本人が、公の場で戦略を語ってしまうんです。
2018年8月23日。ネタニヤフ首相はリトアニア訪問に出発する直前、EUについてこう述べました。
EUのイスラエルに対する「非友好的な姿勢」を、より公平なものにするため「バランスさせたい」。
では、どうやってバランスさせるのか。彼はこう言いました。
「EU内部の国々のグループとの協力によって、それを行ってきた」
そして具体的に、東欧諸国、さらにバルト諸国との協力を挙げています。
これは、かなり重要な発言です。
2017年のホットマイク事件だけであれば、「非公開の場でEUの悪口を言っていた」で終わります。ところが翌年には、本人が公の場で、EU内部の国々との関係を使ってEUの対イスラエル姿勢をバランスさせる、という考えをはっきり語っているんです。
自分で言ってしまったわけですね。 では、実際にそんなことが起きたのか。ここから具体的な事例を見ていきます。
実際に何が起きたか──2018年、2019年、2021年
① 2018年5月──エルサレムへの大使館移転

2018年5月、トランプ政権がアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムへ移転します。
これに対してEUでは、この移転を批判する共同声明を出そうという動きが起こりました。
ところが、ハンガリー、チェコ、ルーマニア。この3か国が反対したんです。 結果、当時28か国だったEUとしての共同声明は、成立しませんでした。
ここまでが事実です。そして、ここに興味深い情報が加わります。
2018年5月11日、アメリカの政治メディア「アクシオス」が報じました。記者は、イスラエル外交報道で知られるバラク・ラヴィド氏です。 彼自身がイスラエル出身で、もともとIDF(イスラエル国防軍)に所属していた人物ですね。
アクシオスは、イスラエル政府高官と欧州の外交官の話として、この3か国が「イスラエルと調整して」共同声明を阻止したと報じています。
偶然イスラエルと同じ立場を取った、という話ではないということです。
ただしここは正確に申し上げます。これは報道であって、当事者が認めた事実ではありません。「そう報じられている」というところまでです。
② 2019年11月──入植地問題

2019年11月、トランプ政権のポンペオ国務長官が、イスラエルの民間人入植地について「国際法に違反しているとは必ずしもみなさない」というアメリカの方針転換を発表しました。
これに対して、EU加盟国による共同声明を出そうという動きが起こります。ところが、またハンガリーが反対しました。
2019年11月19日のタイムズ・オブ・イスラエルは、事情を直接知る外交筋の話として、ハンガリーのペーテル・シーヤールトー外相が、入植地の法的地位に関するEU声明には反対する姿勢を明確にしていたと報じています。
ここでも、EU全体としての共同声明はまとまりませんでした。
入植地が国際法違反かどうかというのは、パレスチナ問題の中核にある論点です。 その一点でアメリカが長年の立場を覆したのに、ヨーロッパは一つの声明すら出せなかった。ここでもハンガリー、というわけです。
③ 2021年5月──「26対1」
そして、もっとも分かりやすい事例です。
2021年5月、イスラエルとハマスの間で大規模な戦闘が起きました。EUは停戦を求める立場をまとめようとします。 当時の加盟国は27か国。
そのうち26か国が支持。しかし、1か国だけが反対しました。またしてもハンガリーです。
EU外交を専門に報じる「ユーラクティブ」も、ハンガリーがEUとしての停戦声明を阻止したと報じています。
26対1です。普通に考えれば、圧倒的多数ですよね。 ところが全会一致が必要な「EUの正式な立場」という意味では、その『1』が決定的な意味を持ってしまう。
2024年、外相から外相への一本の電話

2023年10月7日のハマスによる大規模攻撃のあと、イスラエルはガザで大規模な軍事作戦を開始します。戦争が長期化すると、ヨーロッパでもイスラエルへの批判が強まっていきました。
ここで、それまで築いてきたEU内部の友好国ネットワークが、再び意味を持ちます。
そして、きわめて露骨な事例が出てきます。
2024年2月19日、エルサレム・ポストが非常に興味深いスクープを報じました。
EUでは、ガザ南部ラファへのイスラエル軍の作戦をめぐり、27か国全部による共同声明をまとめようとしていました。EU外交トップだったジョセップ・ボレル氏は、2度にわたって27か国のまとまりを作ろうとします。
しかし、ハンガリーが反対しました。
その裏で、何があったのか。
- 当時のイスラエルの外相イスラエル・カッツ氏が、ミュンヘン安全保障会議に出席中に、ハンガリーの外相ペーテル・シーヤールトー氏に直接電話をしていた
- そして「声明を阻止するために、イスラエルを助けてほしい」と要請した
- さらに同紙は外交筋の話として、シーヤールトー外相がその後カッツ外相に電話を返し、自分が声明を「阻止した」と伝えたと報じています
- そしてカッツ外相は、そのことをネタニヤフ首相に報告した
「分かりました」と言って反対し、「私が阻止しました」と電話で報告する。ここまで来ています。
結果として、26か国が独自に声明を出し、ハンガリー1国だけが外れるという、EUでは異例の形になりました。
見えてくるパターン──ただし「操っている」という話ではありません

ここまでを、時系列で並べてみます。
- 2017年 ── ネタニヤフ首相がV4首脳との非公開会談で、EUの対イスラエル政策を内部から変えるよう働きかけ
- 2018年 ── 本人が公の場で「東欧・バルト諸国との協力によってEUの姿勢をバランスさせてきた」と発言
- 2018年 ── ハンガリー・チェコ・ルーマニアがエルサレム問題をめぐるEU共同声明を阻止(アクシオスは「イスラエルとの調整があった」と報道)
- 2019年 ── ハンガリーが入植地問題をめぐるEU共同声明に反対
- 2021年 ── ハンガリーが停戦声明を阻止。26対1
- 2024年 ── イスラエル外相がハンガリー外相に電話し、声明の阻止を要請
だんだん、一つのパターンが見えてきます。
そして、変化にも注目してください。
2017年の時点では、首脳会談の場で「EUの内部から働きかけてほしい」とお願いをしていた段階でした。ところが2024年には、外相が会議の合間に電話を一本かけるだけで済むようになっている。しかも「阻止しました」という報告の電話まで返ってくる。
7年で、関係の性質そのものが変わったということです。
ここからは、私の見方です。

「ネタニヤフ首相が最初からEUを分断する巨大な計画を作って、すべてを操っていた」という話ではないと思っています。それは言い過ぎです。誇張です。
ハンガリーにも、チェコにも、それぞれ独自の国益があります。 オルバン氏がEU主流派と対立する理由も、イスラエルの問題だけではありません。 移民、国家主権、ウクライナ戦争、ロシアとの関係、EUの権限。さまざまな理由からEUと対立しているわけです。
ですから「イスラエルがハンガリーを操っている」というのは、言いすぎです。
私が注目しているのは、こちらです。
EU内部にもともと存在する政治的な亀裂を、ネタニヤフ外交が非常にうまく利用しているのではないか。
そして本人の2018年の発言を見る限り、「EU内部の国々と組んで、EU全体の対イスラエル姿勢を変える」という発想自体は、本人が明確に持っていた。ここは重要だと思います。
国家外交から、政党外交へ──ここが今回、私がいちばん注目している点です

そして2020年代に入って、外交の形そのものが変わり始めます。
2010年代の中心は、国家対国家でした。 イスラエルとハンガリー。イスラエルとチェコ。イスラエルとV4。イスラエルとバルト諸国。
ところが2020年代に入ると、ヨーロッパ政治そのものが変わります。
右派・ポピュリスト政党が、各国で勢力を拡大していく。 フランスの国民連合、スペインのVox、オランダの自由党、ハンガリーのフィデス。
すると、イスラエル側に新しい選択肢が生まれます。
政府だけではなく、政党そのものと関係を作る、という選択肢です。
ここが今回、私がいちばん注目しているポイントです。
2017年のネタニヤフ外交は、V4という「政府首脳」とのネットワークでした。ところが現在は、リクードという「イスラエルの政党」が、欧州の右派政党と直接つながり始めている。
かつては「ネタニヤフとオルバン」という一本の線だったものが、いまは「リクード → Patriots for Europe → 各国の右派政党」という、国境を越えた政治ネットワークへ広がっているんです。
ただし、ここも分けて考える必要があります。
2017年のV4外交と、現在のPatriots for Europeとの関係が、最初から一つの長期計画として設計されていたという証拠があるわけではありません。 昨日お話ししたとおり、2015年の移民危機という外的要因があって、右派ポピュリスト政党が躍進してきた。最初から描かれていた絵ではないんです。
しかし、非常に興味深い連続性があります。
それが「EUを一枚岩として相手にしない」という発想です。
EU全体がイスラエルに厳しくても、EU内部には友好的な国がある。友好的な首相がいる。友好的な政党がある。だったら、そこに直接アクセスする。国家レベルで味方を作り、そして政党レベルでも味方を作る。
分断工作とまでは言いません。ですが、亀裂を実にうまく利用している。 結果として、EUの内部に、イスラエルに友好的な政治ネットワークが形成されていったわけです。
そして2026年──Patriots for Europeの代表団が、イスラエルを訪問した

ここまで見てきたのは、主に2017年から2025年にかけての流れです。
最初はオルバン氏やV4でした。それがやがて、国民連合、Vox、自由党、フィデス、そしてPatriots for Europeという国境を越えた政党ネットワークへ広がっていった。
では、その後どうなったのか。
実は2026年に入って、この動きはさらに加速しています。
- 今年1月、Patriots for Europeの代表団がイスラエルを訪問しました
- そして彼らを迎えたのは、ネタニヤフ首相本人。場所はイスラエル首相官邸です
- さらに、ヨーロッパの右派政治家たちが、イスラエル国会クネセトの本会議場に入り始めました
これまでイスラエルが距離を置いてきた勢力に、ついに扉が開き始めたということです。
イスラエルは長らく、こうした「極右」と呼ばれてきた政党とは距離を置いてきました。過去の反ユダヤ主義的な言動を理由に、接触を禁じてきたわけです。 それを、解禁し始めた。
そして今年は、マリーヌ・ルペン氏、ウィルダース氏、オーストリア自由党、そしてチクリ大臣。この辺りを追っていくと、興味深い動きが次々に出てきます。
2026年のわずか数か月で、このネットワークはかなり先まで進みました。 ここについては、また改めて整理してお伝えしたいと思います。
まとめ──「1」を押さえれば「27」は動かない
最後に、公平な事実認識から始めます。
ハンガリーがEU共同声明に反対したこと自体は、EU加盟国の正当な権利の行使です。 違法性はどこにもありません。そしてハンガリーには、イスラエル問題とは無関係の独自の国益があります。 移民、国家主権、ウクライナ、ロシア。オルバン政権がEU主流派と衝突してきた理由は、いくつもある。
しかし、残る動かしがたい事実があります。
2018年、ネタニヤフ首相自身が「EU内部の国々のグループとの協力によって、EUの対イスラエル姿勢をバランスさせてきた」と公の場で語った。 そして2024年、イスラエルの外相が、EU声明を止めるためにハンガリーの外相へ直接電話をかけていた。
表層ではなく、構造を見てください。そして、誰が得をするのかで見てください。
メディアは、これを「ハンガリーがまた反対した」というEU内部の話として片付けます。ですがその奥にあるのは、はるかに単純で、はるかに応用の効く発想です。
27を相手にしない。1を押さえる。それだけで、27は動かなくなる。
これは、EUに限った話でしょうか。 全会一致を原則とする国際機関は、ほかにもたくさんあります。そして日本もまた、そうした場に参加している国のひとつです。
そして私たち日本は、どうすべきか。
アメリカがイスラエル勢力とイスラム勢力に引き裂かれているという話をしました。いま進行中の中間選挙でも、まさにこの現象が起きています。
アメリカ最大のイスラエル・ロビーであるAIPACが支持する候補が、次々と負けているんです。 では、誰に負けているのか。背後にイスラム勢力がついた、DSA(アメリカ民主社会主義者)の社会主義候補です。
この二つは同盟を組んでいます。赤(マルクス主義)と緑(イスラム主義)のレッドグリーン同盟ですね。 そして緑の側には、ムスリム同胞団の1991年文書で明らかになった「5段階の浸透計画」があります。 その第4段階が、ミシガン州を筆頭にアメリカ国内で起こり始めた。 民主党の上院予備選でDSA支持のアブドゥル・エルサイード氏が勝ち、本選で共和党候補に勝てば、アメリカ史上初のイスラム教徒の上院議員が誕生する。そこまで来ています。
そして同じことが、ヨーロッパでも起きています。 イスラエルがハンガリーやV4、そして右派ポピュリスト政党とネットワークを築いてきた一方で、ヨーロッパにもイスラム勢力が相当に浸透してきている。ロンドンなどは、すでに5段階の第3段階に入っています。
つまりヨーロッパもまた、アメリカと同じ構造になりつつあるということです。
世界は、西洋文明のグループと、イスラム文明+中国・ロシア・イランのグループに分かれつつある。そして日本は、西側にどっぷり浸かったままです。
日本が取るべきは、どちらの陣営にも与しない中立の立場です。 それを取り、そして維持していく。この構図の中で日本がどういう立ち位置を取るべきか。本当に、考えなければなりません。
真の独立とは、真の主権とは、何か。 「1を押さえれば27は動かない」という発想を、日本は自分のために使えているでしょうか。
ここまでお読みくださりありがとうございます。また次の記事でお目にかかりましょう。
今回の内容をさらに詳しく解説した動画は、私のYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ1か国の反対でEUの声明が止まるのですか?
EUの共通外交・安全保障政策では、重要な決定について原則として加盟国の全会一致が必要だからです。 27か国のうち26か国が賛成しても、1か国が反対すればEU全体の正式な立場としてまとまらないケースがあります。 2021年5月の停戦声明は、まさに26対1でまとまりませんでした。
Q2. 「ホットマイク事件」とは何ですか?
2017年7月19日、ブダペストで行われたネタニヤフ首相とV4(ハンガリー・ポーランド・チェコ・スロバキア)首脳の会談での出来事です。 非公開のはずがマイクが切れておらず、発言が別室の記者に聞こえてしまいました。 JTA(ユダヤ電報通信)が報じ、「クレイジーだ。本当にクレイジーだ」という発言と、EU内部から対イスラエル政策を変えるよう求めた内容が記録されています。
Q3. イスラエルがハンガリーを操っているということですか?
いいえ、それは言い過ぎだと考えています。 ハンガリーには、移民・国家主権・ウクライナ・ロシアなど、イスラエルとは無関係の独自の国益があり、それゆえにEU主流派と対立しています。 正確には「EU内部にもともと存在する政治的な亀裂を、ネタニヤフ外交がうまく利用している」という見方です。
Q4. 2010年代と2020年代で、何が変わったのですか?
外交の相手が「国家」から「政党」に変わりました。 2010年代はイスラエルとハンガリー、イスラエルとV4という国家対国家の関係が中心でした。 現在はリクードという政党が、欧州議会の右派会派Patriots for Europeを経由して、各国の右派政党と直接つながっています。 2026年1月には、その代表団がイスラエル首相官邸を訪問しました。

